45号(1985年05月)2ページ
動物園の1年 前編 4月
ベビーラッシュの兆し、ブラッザグェノンの負傷・他
1日、ココノオビアルマジロが出産するビッグニュースから始まりました。が、結果は“涙を飲んだ動物への仲間入り”で述べた通りです。子、親ともに死ぬ惨めな結果に終わりました。
惨めな結果としては、もうひとつあります。フンボルトペンギンの自然ふ化です。親がかえしたものをあえて取り上げ、人工育雛に切り換えたのが仇、食滞を起こし3日後、6日後にそれそれあえなく昇天させてしまいました。それを担当していたのは、私。技術的に困難ではない、とされながらこの様です。あまりの未熟さに、いささか自己嫌悪に陥りました。
8種類に及んだ出産、ふ化、こんな不様な話ばかりではありません。前年に引き続いて4月8日にチリーフラミンゴが、4月18日にはベニイロフラミンゴが、相次いでふ化。再び、子育て競争が始まりました。親とは全く似ても似つかぬ小さな灰色のひなが、ピイピイと鳴いては餌をねだる楽しい光景がそこに見られるように―。くの字に曲がったくちばしも最初はまっすぐ、細くて長いのが代名詞でもある脚も、最初は太くて短く、そんなひなが眼に見えてどんどん大きくなってゆきます。かつては朱色の彩りがきれいだっただけのフラミンゴの池、月日はいろんな変化を与えてくれます。
新夜行性動物館より、又ビッグなニュースが伝わってきました。中華人民共和国よりの親善大使、ベンガルヤマネコが出産したのです。が、折りからの雷雨の響きに怯えて、親が子をくわえおろおろ。せっかく作ってあげた巣箱にも不備なところがあり、急遽人工哺育に切り換えられました。子供動物園にいるベンちゃんとガルちゃんを御存知ですか。そうです。1年であんなに大きくなったのです。ミルクの飲みが悪い、下痢して困った、と担当者はよく嘆いていましたが、当時のそんな面影はもうとっくに無くなってしまっています。
肝を冷やした出来事といえば、ブラッザグエノンの負傷。これも私が深く関わったのですが、ひと仕事。代番であるモンキー舎の清掃を終え、巡回した時のこと。ふとメスの太ももに目をやれば、ざっくりと切れているではありませんか。思わず出た「うああっ」の声に周囲のお客様がびっくり。
何でもない時なら、つかまえて傷口を縫合し、しばらく入院させれば済むことです。が、お腹の中には子がいます。それも出産が間近です。下手なことをすればお腹の子が―。正に困った事態となりました。麻酔も、危険を承知で―。効き過ぎればお腹の子が死んでしまいます。抵抗力を奪う程度の中で治療は始められ、縫合は実に16針にも及びました。お腹の子もどうやら死ぬことはありませんでした。それにしても、オスは何が気に入らなくて咬みついたのでしょう。