45号(1985年05月)7ページ
動物園の1年 前編 9月
オランウータン(クリコ)の死・爬虫類館スターの交代他
この月の出産は、バーバリシープたった1頭だけでした。この動物は、本当に毎年毎年よく生み続けます。動物園で飼育されている動物の中で、最も丈夫な部類に入るのではないでしょうか。
21日、オランウータンのクリコが遂に逝きました。咳が出始めたのは、3年半程前から。それは次第に日常化して、食欲を奪い、気管や肺をむしばんでいったのです。
今から思えば、よくジュンを産んでくれました。先の子ケンと分け、オスのテツと同居される時、すでに病気は進行している状態にあり、ただそれが軽かっただけです。そんな中で妊娠、出産、育児、結果だけから見れば、寿命を縮めさせる行為以外のなにものでもありませんでした。
確かに今までなかったつわりがあり、著しく体重は減ることもしばしば。出産も予定より2週間以上も早くて、子(ジュン)はかなり小ぶりでした。しかもミルクの出の悪さ。ケンの時とは大違いでした。
ジュンは、母親の命を吸いながら大きくなった、と言ってもいいでしょう。クリコもそれで本望だった筈。子を産まず少しばかり生き長らえるより、余命、余力を新たな生命に託してこそ―。あまりに人間的に考えすぎでしょうか。
この月、爬虫類館においても、開館以来であるヒイロニシキヘビが死んでいます。これの少し前には、担当者を薄気味悪いと唸らせた大蛇、アミメニシキヘビも死んでいます。1月に体の中にできた「血腫」を取り除いて以来どうも経過は思わしくなく、遂に力尽きて・・・。
入れ替わって来たのが、子供動物園の幼児動物教室で活躍したインドニシキヘビ。おとなしいのですが、どうにも大きくなり過ぎて現役からは退き、その役は次のまだ小さなニシキヘビに譲っていました。爬虫類館に移って、案外ほっとしたかもしれません。
他に、水面を走ることで話題を集めた、ミドリバシリスクやコモンバシリスクが新展示。爬虫類館におけるスターも、徐々に交代していきます。
以下、次号に続く。(松下憲行)