46号(1985年07月)4ページ
良母愚母 第6回 ◎バーバリシープ(良母愚母入り混じって・・・)
累代飼育なんて言葉は、ふだん使いません。常識的には、昆虫の飼育に使われる言葉です。4代、5代続いた結果がどうのこうのということで、哺乳類や鳥類で、特に日本平動物園のような若い動物園において、まず問題や話題が提起されることはありません。
でも、バーバリシープだけは別。ほとんどが4代目ないし5代目になる筈です。旺盛な繁殖力でもってどんどん増え、2頭が3頭、3頭が5〜7頭、10頭となって、いつしか間引けど間引けど(ほとんどが動物商へ)、20頭内外の群れを維持するように。当然ボスも幾度か入れ替わっています。角と角を激しくぶつけ合っての力比べ、なかなかの見ものでした。
日本におけるバーバリシープのルーツは、当園に限らず、ほとんどが上野動物園にたどりつくと聞いたことがあります。繁殖力の旺盛さと飼い易さによって、全国に散らばっていったというのです。が、日本の動物園を席巻するまでには、相当の近親交配があった筈です。その積み重ねにおいて今日があると考えてもよいでしょう。日本平動物園とて決して例外ではありません。
改めてかみしめる丈夫さですが、真に野生のものと比べれば、多少小型化しているかもしれません。それはそれとして、ここまで累代を重ねてきたのなら、お母さんぶりに問題を起こす個体は、そういなかったと見ていいでしょう。
が、よく聞いて確かめれば、意外にそうでもないようです。確かに抜群の繁殖力を示しているのですが、割合死亡率は高いのです。その中には、面倒見を悪さが原因と思われるものもけっこうあるのです。
草食獣の良母の証明は、子を舐めることです。最初は羊水でぬれた体を乾かすのに最上の役割を果たすなら、次は衛生及び体調の維持。成長するに従って丸いコロコロとしたウンチをするのですが、赤ん坊の内は別です。特に胎便はねっとりしていて、放っておけば単に不潔だけではなく、肛門が閉じてしまうことすらあります。
いわゆる“愚母”は、それを舐め取ってやらないのです。知ってか知らずか、それを放ったらかしにしてしまうのです。そんな母親から産まれる赤ん坊は、当然ミルクを飲む力もなくして―。
何がいったいその別かれ道となるのか、愚母の脳ミソを割ってみて分かるものなら、そうもしたくなります。が、そんなことをしても分かる筈がありません。ただ、ただ首をかしげてしまうだけです。
それでも続くバーバリシープの旺盛な繁殖。1頭1頭は地味でも、群れをなせばなかなか迫力があり、魅力的でもあります。あまりにも増えて悲鳴をあげる担当者を尻目に、意外な人気を博しています。