46号(1985年07月)6ページ
良母愚母 第6回 ◎マレーバク(可愛がられて変身しろウリ坊)
神様が7種の動物を寄せ集めて作った、といういわれのある動物だけに、その体形は決してスマートではありません。ずんぐりとクマに似た胴に短い脚、ウシのようにちょろりと伸びた尾、ゾウに似れど伸びそこなったようで妙に動く鼻。ずばり“ダサイ”“野暮ったい”と言ってしまってもよいでしょうか。
しかし、このマレーバクも現在では大変貴重な動物になっています。おいそれとは簡単に手に入りません。絶滅寸前の動物のひとつに数え上げられているぐらいです。私たちがこうして手元において飼育できるのは、全くの幸運であり、その責任は重大と言わざるを得ないでしょう。
野生のものは、もう求める訳にはゆかないのです。幸運にも手に入れることができたのなら、まず健康を維持し、無事に成長を計ること。そして次にくる大きな使命が繁殖です。もっともそれはひたすら神様に願うだけでしょう。繁殖の秘訣は、何と言っても良いペアに恵まれること。いくら一人前に育て上げても、オスとメスの仲が悪ければどうしようもありません。
幸い日本平動物園においては、2頭の子に恵まれました。今後にも、まだ何頭かは期待できるのではないかと思います。相性が悪くて、オス、メスどうしても一緒にできなくて悩んでいる動物園もあるのですから、幸せをしっかりかみしめてもよいでしょう。
ところで、バクの赤ん坊をゆっくり御覧になったことがありますか。ただ、親よりうんと小さいだけではありません。バクの赤ん坊の面白さは、体全体がウリ模様になっていることです。それが何とも愛らしく印象づけられます。恐らくそれは保護色なのでしょう。危険がいっぱいの野生の中を生き抜いてゆく内に、自然とそんな色模様がつくようになったのだと思います。
そんなウリ模様も1週間、2週間と過ぎてゆくと、次第に消えて、その下からは親と同じ模様が浮かんできます。ほぼ完全に消えるまでには、4ヶ月くらいかかるでしょうか。又、その頃になると体格もがっちりし、親の半分近くまでになっています。(産まれた時は10kg前後)
さあ、それでそのお母さんぶりです。良母愚母の主題からして、語らねばならないでしょう。結論はひと言。立派、実に面倒見のよいお母さんです。今後に何の憂いもありません。