46号(1985年08月)3ページ
良母愚母 第7回 ◎ココノオビアルマジロ(良母愚母の問いようもなく
世の中には、不思議な動物がいっぱいいます。私たちの知識が貧しい為に、余計そう感じてしまうのでしょうか。それにしてもと思うことが度々あります。
着床遅延とは書けば、何のことと思われるでしょう。卵子が受精すれば、そのまま母親の体内で大きくなるのは当たり前とする考えからは、想像もつきません。中には受胎してもしばらく成長しないで、適当な時期が来ると、子宮に着床して成長し、産まれてくる種類があるのです。
最初は、カンガルーに代表される有袋類だけかと思っていましたが、さにあらず。クマの仲間、イタチの仲間、それに貧歯目に入るこのアルマジロの仲間もそうです。探せばもっと出てくるかもしれません。自然の妙と言ってしまえばそれまでですが、特異な生理には全く驚かされます。
もっとも、出産予定日を立てる側からすれば、こんな気楽な動物はいません。発情がきていて最終交尾を見落としたからと言って、慌てなくても済むからです。春なら春、秋なら秋、ほぼ決まった時期に産む為に、それに備えてさえいればいいのです。
ココノオビアルマジロにしたってそうでした。新夜行性動物館に移す前、動物病院で検疫中に持ち込み(妊娠したまま入って来ること)ながら出産(死産)していたので、丸々1年後の新夜行性動物館において初めて迎える春に出産することは、充分に考えられました。
予想はピッタリ!前年よりずれたのはわずかに1日だけでした。が、後がよくありません。「動物園の1年」の中でも語りましたが、親子共々の死となり、良母・愚母の問いかけさえできなくなりました。