47号(1985年10月)3ページ
良母愚母 第8回 ◎ワオキツネザル(かつての悲劇もウソのよう)
小型サル舎建設に伴って飼育され始めたワオキツネザル(輪尾狐猿、と書けば少しはイメージが浮かぶでしょうか。マダガスカル島に生息する原猿類です。)繁殖までは比較的間がなかったように思います。が、後がいけません。
オス1頭にメス2頭がいたのですが、そのメス同士が出産して1週間くらい経った頃にトラブル、そしてそのあおりをくって子が巻き込まれて、がぶりとやられ〜。
最初は、たまたまの偶発がとも思えましたが、翌年にも又同じことが起こりました。これでは放っておけません。原因は何であれ、出産期にはメス同士を一緒にしないほうが賢明です。
更に翌年は、1頭のメスを動物病院に収容し、トラブルを未然に防ぐことによって、子が無事に成長できる環境作りに努めました。結果は上々。小型サル舎に残したメスも、病院に移されたメスも、ほとんど日を違わずに出産し、楽しい育児競争が始まりました。
弱々しく、ただひたすら母親にしがみついておっぱいを飲んでいるだけの赤ん坊が、いつしか愛らしさをいっぱい振りまいて、母親の周りを飛び跳ねるようになるところに、観察の楽しさがあります。写真を撮るにしてもそうです。途中で死なれては、何の為に撮ったかわからず、後々見るのさえいやになってしまいます。
そんなひたむきな思いが通じたのでしょうか、以後トラブルによる子の死は聞かなくなりました。年月が経て第2小型サル舎が建設され、移動した後も繁殖は順調に進み、賑やかな家族を形成するようになりました。かつてのトラブルはウソのようです。
1度でも担当したことのある飼育係ならともかく、多くの飼育係にとっては風化しかかっている出来事です。仲睦まじく平和な営みからは想像のしようもありません。もう6〜7年も過ぎ去ってしまっているのです。
でも、担当していた訳ではないものの、何故あんなトラブルが起きたのか、私なりに突き詰めてみたくなる時があります。良母を良母にさせるために、絶対と言っていいほど起こしてはならないトラブルだからです。