47号(1985年10月)6ページ
良母愚母 第8回 ◎リスザル(育児放棄は聞いたことがない)
名前の通り、小柄でかわいいサルです。かつてペットショップでも、よく売られていたように思います。が、かわいらしいだけで飼っても、たいていかわいそうなめにあわせてしまいます。社会性が非常に強いゆえにです。
ずいぶん前に、一匹で飼えば死ぬ、と書いてあった本を読んだことがあります。当然でしょう。ひとりぼっちで寂しいと言うことは、それだけで精神的ストレスを強烈にためていることになります。そこへ急激な環境の変化や食性に対する無理解が加われば、生きていろと言うほうが無茶な話です。
野生の生き物を一般の家庭で飼うべきではない、とよく私たちは戒めますが、多分にそれらの理由によるものです。はっきり言って、私たちプロでさえ数限りない失敗を繰り返しています。
リスザルの飼育の条件は、とにかく多くの数で飼うことです。10頭よりも20頭、20頭よりも30頭。野生では何百もの数で群れをなしていると言われていますから、多ければ多いほどよいのです。反面、排他性も忘れてはいけません。一度群れから離すと、戻すのは容易にはいかないものです。
食べ物も大変です。果物や野菜をたっぷり与えていても、たん白質の供給が不足すると、体力が想像以上に落ちこみます。ある年の冬場、ちょっと弱っていた個体が、バタバタッと倒れたことがありました。やはりそこで問題になったのは、たん白質が不足しているのではないかと言うことでした。見ためが太っているだけではだめなのです。
そんな合い間をぬって、けっこう繁殖もありました。が、話題性を欠いたのは、小さ過ぎたせいでしょうか。写真に撮りにくい、子供をおんぶしていても目立たない、何処にいるかが分かり辛い、それらが重なり合った為と思われます。
でも、熱帯性鳥類館、子供動物園、第2小型サル舎、と飼育場を変遷しながら10数年の歳月を経ているのです。2代目はもちろん、よく調べれば3代目も産まれている可能性があります。そして、その間一度も人工哺育騒ぎなど起こしたことがありません。小さな可愛い良母群、と言ってもいいでしょう。