47号(1985年10月)9ページ
飼育係体験記 インドゾウ・アメリカバイソン編?T
県立城北高校 生物部動物園班 少女A
飼育係さんの仕事を、どのくらいまでやらせてもらえるかわからなかったので、特に“この動物をやりたい”というのはなかったけれど、当日は体格を買われて?ゾウとアメリカバイソンをやらせてもらうことになった。飼育の仕事ができる!ということだけで、夢がかなったような気がしていたのに、ゾウとバイソンをやらせてもらえる!と、夢がより現実のものとなって、何だかことの重要性をひしひしと感じ、こわいような気がした。
まず、ゾウ舎にいった。すでにゾウは2頭(ダンボ、シャンテイ、共にメス)とも運動場にでていて、飼育係の鈴木和明さんがゾウ舎(寝るところ)の掃除をしていた。奥のダンボの部屋だった。三宅飼育課長さんから、鈴木さんにお願いしていただいて、1日働かせていただくことになった。
ゾウ舎に入る。もちろん初めてのこと。外から見るよりも広い。そしてかなり太い鉄格子ががっしりと組まれ、ゾウが逃げられないようになっていた。
『わぁー、ここでゾウが寝ているのかぁ。』
まだ、手前のシャンティの部屋は掃除する前で、夕べのうちにしたフンが残っていた。そのフンと対面して何となく楽しいような、うれしいような気分になった。いかにも自分が飼育係になったような気がして・・・。ゾウ舎に入ってしばらくは、興奮状態が続いた。高い天井、丈夫な壁、たっぷりとした水飲み場・・・。目に写るすべてのものが私の心をとらえた。
うれしさのあまり、次々に鈴木さんに質問してしまった。親切な鈴木さんはいそがしのにイヤな顔せず、丁寧に答えてくださった。ある程度(かなり)の質問を終えて、いよいよ手伝わせていただくことになった。
ひとかたまり1kg位あるフンの山を目の前に、思わず私の肩に力が入った。
『よっし、やるぞ〜』
まず、フンをスコップで取りさり、そのあとで竹ぼうきで散らばっているワラを掃く。さすがに鈴木さんは手早い。みるみる間にポリバケツ4杯がフンでうまった。
私は、竹ぼうきで掃くことにした。ゾウの部屋だけあって、その広さは半端じゃない。部屋の奥から、排水口めざして掃いてゆくのだが、かなりの時間と労力を使った。でも、まだきれいになってはいない。あちこちに残っているワラが目につく。
次にそのワラを水できれいに流す。てっきりホースかと思っていたら、黒いホースのような丈夫そうなチューブの先に、水鉄砲を高度にしたようなものがついていて、その引きがねを自分で操作して水を出すのだが、その水のいきおいがものすごく、引き金をひくのに勇気がいった。ダンボの部屋をきれいにするのをまかされたが、そのとき『ワラ1本残してはいけないぞ』と言われ、“あ〜、これがプロの厳しさなんだなぁ”と、その言葉をかみしめて流しにかかった。
最初は、引き金を引く事だけに神経が集中してしまい、床に残っているワラには気を配れなかったが、引き金にだいぶ慣れて操作が楽しくなってくると、『ダンボのためにきれいにしよう!』という気持ちが湧いてきた。ここでもやはり時間がかかってしまったが、何とかやり終えた。なんとなく満足感があった。だけど、ゆっくりしてはいられない。次はバイソンだ。
バイソン舎に行くと、早速バイソンたちを運動場に出した。私ののろい作業でゾウの方に時間をとりすぎたためか、バイソンたちはとびらの前で待っており、自分の前の入口があくと、それ〜っとばかりに運動場へ駆けていった。
『おそくなってごめんね!』
さて次は掃除だ。手順はゾウの時と同じ。ここでも鈴木さんがスコップでフンをとり、そのあとを私が竹ぼうきで掃いた。もう懸命だった。“おくれてはいけない”という気持ちと“よりきれいに”という気持ちが入り混じって、頭の中の整理がつかなく、一人であせって力まかせに掃きまくった。
そして、3つめのジミーくんの部屋は私が一人でまかされた。というより、2つめの部屋までを鈴木さんが水できれいに流すために、私がスコップでフンとりからやり始めた。それまで鈴木さんがスコップを使ってフンとりをするのを見ていたわけだから、頭の中ではバッチリだった。が、実際はスコップが使いこなせなくて、フンが思うようにとれず、予想以上の四苦八苦。“だめだなぁ〜”とやや落ちこむ。と、ふと窓の外に目がいった。もう、お客さんが来ているのだ。
バイソンの部屋はあまりのぞいていく人はいないのに、私はそこで急に“見られている”という意識と、“私は飼育係なんだ”という意識がおこり、気を張りなおし、次の竹ぼうきにとりかかった。汗がしたたり落ちてくる。腰が少しいたい。いろんなことが頭の中をよぎったが、かまわず掃き続けた。ひととおり掃き終って手を見たら、右手の親指の内側と左手の小指の内側の皮がむけていた。少しひりひりする。
“だらしないなぁ〜。ちょっとやったからって、もうこんなになっちゃうなんて!”ふだんいかに働いていないか、身にしみてしまった。
次は、デッキブラシを使って床をゴシゴシ洗う。これはかなり力がいる。誠心誠意、心をこめてやらなければ、ブラシがスカッと空振りしたようになってしまうのだから、単純な作業の繰り返しだが、体力的にはこれに一番骨が折れたように思う。さすがにやり終えたあとは、全身が疲れたぁという感じだった。だけどそれよりも、ひとつの仕事を終えて“やったね”という爽快な気分を味わうことができた。
このあと、ゾウ舎に戻って同じようにデッキブラシをかけた。ゾウ舎は、バイソン舎よりさらに広くて大変だったが、“今晩ここで、ダンボもシャンティも眠るのだ”と考えると、根性でなんとかやり遂げた。(と思っている)
その後、鈴木さんからいろいろなお話を聞かせていただいた。まずゾウのこと。ゾウはたいへん頭が良いそうである。飼育係さんの顔色をうかがうという。心を読んでしまうのだ。だから訓練などをするときも、こちらが少しでも気のりがしなかったり、ゾウが途中でやめたりして、それをそこでいいにしてしまうと、ゾウはもうそれを覚えて、命令に従わなくなってしまうそうだ。あの巨大なゾウをあつかうには、主従関係をはっきりさせなくてはいけないし、その関係が同等であってもいけないという。でもここのダンボとシャンティは小さい頃しっかり教育され、その時のことを2頭は覚えているから、まず攻撃することはないそうだ。といっても、なにしろ相手は3トンもあるゾウたち。鈴木さんはいつもこわいと思っているそうだ。こういうところからも、飼育係さんの仕事のたいへんさがうかがわれる。(次号に続く)
《飼育係体験記は、これから数回にわけて記載しますので楽しみにしてください》