48号(1985年11月)4ページ
良母愚母(第九回)・キンバト
★キンバト(旧・新共に繁殖したのはよいけれど…)
雑居飼いの中で繁殖に導くのは、応々にして困難が伴います。飼育係のひと工夫、ふた工夫もさることながら、鳥達にも図々し過ぎるぐらいのたくましさが求められます。そうでなければ、いくら仲のよいペアができ上がっても、全ては夢と見なさざるを得ません。
キンバトには、正にそれが当てはまりました。旧館の開放展示室の中のことですが、巣作りにいくら励んでも、次から次、他の鳥類がその巣を壊してゆきました。たいていならそれでおジャンです。
でも、想像を越えるたくましさを備えていたようで、キンバトの為に怒った担当者がちょっと工夫。金網を土台にした簡単には壊れない巣台を作ることで、繁殖の基盤は容易に築かれました。そこを足場にキンバトは、すぐに産卵。ふ化を繰り返していったのです。体力的にも、他の鳥類に負けなかったのが幸いしたと思います。
開放展示室故の悲劇。ガラスの仕切りがない為に、巣立ちの時期に何羽かが、やたら飛び回って壁に当たり、事故死することもありました。が、七年間に七羽がふ化、四羽が無事に育ってゆきました。
その、メス親、オス親は、共に三年前、動物病院で死んでいます。新熱帯鳥類館建設の為にやむなく引っ越しした場所でです。病弱、老齢とあって、仮住居の場所は辛かったようでした。
たいていなら、ここで話は終わります。終わらざるを得なくなってしまうものです。が、その子らはたくましく、かつ良母・良父の血をしっかり引き継ぎ、新館のジャングル展示室においても、今年の春先より積極的に営巣活動。観客通路から簡単に手が届きそうな場所で産卵、ふ化。
図々しいのか、そこしか場所がなかったのかは分かりません。いずれにしろ、他の鳥類によく妨害されなかったものです。二年前にはコウカンチョウがふ化しながら、間もなく二羽のヒナ共に誘拐され、姿を消してしまった経過があったのですから、余計にそう思います。
それらの困難は克服されたものの、後がいけません。育雛の最中、ふいにオス親が姿を消してしまったのです。ジャングル展示室の出入口の扉は自動になっているのですが、何かのタイミングでそこからお客様と一緒に外へ出てしまったのです。
当面の育雛はメス親の頑張りで何とかしのげても、今後の繁殖を考えると、ガックリくる気持ちは消しようもありません。せっかくの三代目も一度ぽっきり、良母・良父の継承もはかなく消えてゆきました。
(松下 憲行)