48号(1985年11月)6ページ
良母愚母(第九回)・ナマケグマ
★ナマケグマ(愚母から良母に変身も…)
ナマケグマのオスが、目に見えて体調を狂わせ始めたのは、九月下旬辺り。以来、快方に向かうことはなく、下降線の一途。固形物はほとんど受け付けなくなり、某メーカーの栄養ドリンクでかろうじて体力を維持してきたのに、最近ではそれすらも受け付けなくなった、と言うのです。
あまりにも思わしくない様態に、麻酔をかけて診察したところ、腹水がたまり、やせ衰えていて、もう絶望的ですらありました。腹水をぬいて調べた結果でも、”ガン”は間違いないとのこと。「参ったよ。シャーシャーの下痢の上に、水を飲む力もないんだよ。口にいれて下を向くと、みんな出てきちゃうんだよ。」とは、担当者の弁。
”でっきぶらし”三十七号、涙を飲んだ動物たち。その後の中で、メーンに据えて語ったように、昨年の十二月下旬の出産は、数度の失敗を重ね、ようやく無事に育てさせることができたのです。これでペースに乗れると私だけでなく、誰しもそう思い、かつ期待したでしょう。
それが”ガン”でオスが風前の灯では、全て御破算です。一からやり直すしかありません。貴重な動物ですから、入手そのものも非常に困難です。何処の動物園にオスがいて、更に譲渡は可能なのか、その為には今いる子(メス)と交換するしかないのか、それにうまくオスを入手することができたとして、メスとの相性はどうなるのか、一つひとつ全てに不安と集燥が伴います。
見違える程大きくなった子と母親は、放飼場において毎日のようにじゃれ合っています。じっと見ていて飽きることがありません。ほのぼのと暖かい雰囲気に包まれ、「いや、親子って本当にいいものだ」と、誰彼なしに語りかけたくもなっています。
特製の巣箱に馴じむまでは、最悪の母性愛を表現(子を食べてしまう)、人工哺育も二度に渡って失敗。そんな中でようやく良母に変身させることができたのに、”ガン”とは全く情けなくなってきます。ですが、未来がなくなってしまった訳ではありません。アメリカバイソンやダイアナモンキーのように、新しくやってきたオスと非常にうまくいったケースもあります。新しい展開に、多いに期待を寄せたいと思います。