48号(1985年11月)8ページ
良母愚母(第九回)・ホッキョクグマ
★ホッキョクグマ(愚母と言うには気がひける)
ホッキョクグマも涙を飲んだ動物たち。その後の中で語りました。もっとも、マナケグマとは全く逆の意味ですが…。この涙は、当園のような暖かい地方の動物園では、ふっ浮キるのは無理かもしれません。
ホッキョクグマの出産例を追うと、なおそう言う思いにかられます。初めての成功は北海道の旭山動物園。二番目に成功した動物園も北海道の釧路市動物園。この隣の帯広市動物園においても、一ヶ月近く人工哺育を試みた経験を持っています。
そう、明らかに地の不利を抱えています。私たちにとって、又多くの動物にとっても、暖かく過ごし易い場所としても、ホッキョクグマにしてみれば、春ですらむし暑く息苦しいと感じさせているかもしれません。これでは”暖かさ”に慣れさせるだけでもひと苦労です。体力があるので飼うには容易でも、繁殖まで導くとなると様々な困難が待ち受けてしまいます。
それに”寒さ”だけでなく”静けさ”を与えることにおいても、北海道に負けています。冬期は四〜五ヶ月に渡って閉園し、あるいは開園していても閉園に近い状態で、たまにする音は聞き慣れた飼育係の足音だけと合っては、どうあがいても北海道の動物園に対抗できるものではありません。
だからと言って、かつて子の姿だけでも見ることができたから上出来の部類に入ると、ほんの小さな満足だけで、簡単に諦めてしまうのには疑問を感じます。せめて生かして取ることぐらいは考えるべきだし、事実、途中で失敗しながらも人工哺育が試みられたことは、この本州の動物園でもあるのです。
そう気負っても、肝心のホッキョクグマはここ二〜三年、出産の気配を全く見せてくれません。今年もそろそろ、その時期に入るのですが、又、空振りに終わってしまう可能性が大です。
(松下 憲行)