48号(1985年11月)9ページ
飼育係体験記 インドゾウ・アメリカバイソン編?U
(県立城北高校 生物部 動物園班 少女A)
それに、飼育係さんたちにはまわりの人間が考えているより、はるかに多くの悩みやつらいことがあるということも知った。
私は今回、ゾウとバイソンの飼育係体験をしたわけだが、確かにゾウと比べると(比べてはいけないのだが…)バイソンは、なじみのうすい動物なのだ。だけどバイソン舎に入り、バイソンを真近に見て話しかけたり、部屋のそうじをすることによって、バイソンにこのうえない愛情を感じてしまう。バイソンの目がかわいいことだって発見した。なのに『くさい、きたない』とだけいって通りすぎてしまうお客さんがいるのはまぎれもない事実なのだ。そういった反応は仮にも一日だけバイソンに関わった私にさえ、打ちのめされたような気持ちになるのに、毎日、毎日、動物たちの健康に気を配り、温かい愛情で世話をしている飼育係さんにはどれほどいやな気持ちになるだろう。動物園というのは、どうしても”お客さんに見せる”要素が強いわけだから我慢しなくてはならないことかもしれないけど…。だけどやはり飼育係さんが、さびしい思いをするのはかわいそうだと思った。
それから、飼育係さんにとってつらいことには動物の死がある。これも鈴木さんに聞いた話だが、以前担当していたキリンが、ポックリ病で死んでしまったそうだ。同じ死ぬにしても、事故・病気などで原因がはっきりしていれば、飼育係さんが反省したり、今後にいかす対策がとれるのだが、ポックリ病で死んでしまったということは、その理由がわからず、ただ漠然と見ているだけで、どうしてあげることもできなく、一番納得できなかったそうだ。
それにキリンが一頭いなくなってしまうというのは、お客さん側にもはっきりわかるので『キリンはどうしたの?』とその後、ずっと言われつづけ、とてもつらかったそうだ。泣くことは簡単だけど、こらえるのはものすごくたいへんだと思う。そういうところにも飼育係さんのたいへんさがあるように思う…と、いろいろな話を聞いているうちに、十二時近くなった。
もうすぐ昼休みだ。てくてくと歩いて飼育の建物のところまでもどった。そこで調理室をみせていただいた。一番奥の左の水道のところにも、何かごろごろといっぱいおいてあった。やや目の悪い私は、一度さりげなく見たとき、それが何かわからなかった。とっさに、よくスーパーマーケットの魚売場に陳列されている鯛の頭だと勝手に判断した。”こんな高いもの食べているのかー!!”と、何か腑におちないものを感じながら次へ進もうとして、なぜか”まてよ”と思い、改めてしげしげとみつめながめてみた。”えーっ!!”それは鯛の頭などではなかった。と・さ・かがついているのだ。”にわとりだぁーっ”と思ったときはすでに遅く、私はたくさんの首だけになっているにわとりたちににらまれてしまった。(ような気がした)
私の大きな声に前を歩いていた鈴木さんがふりむいた。聞いてみると、猛獣をはじめいろんな動物が食べるそうだ。栄養がものすごく良いそうだ。私は信じられないというか、なんだか背中がムズムズするような、たまらない気持ちがしてきた。鶏肉はキライではないが、にわとり本体は小さな頃から苦手で、どうもたちうちできない。人にはそれぞれなにかしらさけたいというか、我慢できないものがあると思うが、私にすればそれがにわとりであるのだ…と、一人で勝手に心の中で言い訳していた。だから『さわってごらんよ』と言われても”ギャー、ギャー”さわいで『いいです』の一点張りだった。それからしばらくの間、すっかり気持ちが錯乱してしまった。だけど、動物達の餌が種類別になって入っているカゴをのぞいて歩いたとき、バナナとかリンゴとかを見ると、なぜか気持ちがすっかり落ちついていくので、自分でもげんきんだなぁと思った。
昼休みに入り、みんなに久しぶり?に顔をあわせると、午前中の自分の仕事ぶりをついつい自慢げに話してしまう。でも、みんなもニコニコして聞いてくれるし、それぞれが体験したことを話してくれるので、とってもうれしかった。思わず、午後もがんばろう!!という気持ちになった。
お昼ごはんを食べたあと、飼育課のみなさんは、ミーティング(共同作業がある場合等の連絡の時間)を終えて、午後の仕事開始。まず餌の準備からはじまる。バイソンもゾウも大型草食獣用ペレットと、にんじん・さつまいもが主なもの。そしてバイソン用のにんじん・さつまいもは調理室の前に置いてある機械でスライスした。
餌の入ったカゴ・バケツをしまうま模様の車につんで、バイソン舎に向かった。私は、しまうま模様の車に乗せていただいて、うきうきしていた。前から動物園にきて、この車をみかけるたびに”いいなぁ〜”と、あこがれ続けていた車に実際に自分が乗っているなんて…。お客さんが多数いたから、ゆっくり、ゆっくり車を進めた。飼育係でもない私がちゃっかり助手席に座っているので、多くの人が不思議そうな顔をしていた。そんなひとたちにVサインしたいような、そんな気分だった。
バイソン・ゾウの両方とも、餌を部屋に用意した。そうすると、においでわかるらしく、バイソンは部屋の方をじっとみつめていた。(かわいいー!!)それから驚いたことに、雑唐フ中を歩いていたときゾウは二頭とも鈴木さんの姿をみつけ、鼻を高々とあげ、餌を催促した。私は感心して『この人ごみの中でも、ちゃんと見分けられるのですね。えらいですねー。』ていうと、『そうでなくては担当者としては困る』と、いわれた。それもそうだ。だけど、やっぱりえらいなぁと思う。
餌を用意したあとは、しばらく時間があまり類人猿舎の方にお邪魔させていただいた。一般の人は入れない類人猿舎の裏側(寝室がある方)に案内していただいて、ふいのことだっただけにとってもうれしかった。なにしろ、オリを隔てた極、真近なところでゴリラに会ってしまったし、ゴリラの部屋を内側からのぞけるようになっているところから、お客さんの表情や様子を見ることもできて楽しかった。
また、そこで飼育課のみなさんの手でつくられ、毎月一回発行している機関紙”でっきぶらし”や年四回発行で動物の写真がたくさん掲載されている”ZOOしずおか”をみせていただいた。毎日の動物の世話だけでもたいへんなのに、こういう機関紙なども発行しているということは、この飼育係という仕事に情熱を持って取りくんでいるからなんだなぁーとつくづく感じた。こんなに情熱を持ってやれる仕事なんて、うらやましいなぁ、いいなぁ。
それに”ZOOしずおか”に掲載されている写真はどれも動物がいきいきとして、みんないい表情をしている。目が潤んでキラキラしているベンガルヤマネコの双子。気持ちよさそうに泳いでいるアシカ。カメラをのぞきこんでいるような表情のニホンカモシカ。どれもこれも素敵な写真だ。やはり、これは日頃動物たちに愛情をもって接している人たちだから撮れるものだろう。いいなぁ。何だかうらやましいことばかりだ。苦労も多いと思うけど、動物に囲まれている生活っていいものだと思う。
こうしてひとやすみした後、ゾウ舎に向かった。と、その途中のキリンのところで純ちゃんが、飼育係の川畠さんとキリンの運動場の掃除をしていた。『おっ!やっているな♪』と思いながら歩いていくと、鈴木さんが足をとめて、川畠さんに『もう、おわったー?』と聞いた。それでまだだとわかると川畠さんに頼んでくださって、私もキリンの運動場の掃除に参加することになった。類人猿舎にも入ったし、キリンのところもやらせていただいて、大感激!!ただただ鈴木さんに感謝の気持ちでいっぱいでした。
キリンの運動場に立って、まず空をながめてみた。どこまでキリンの気持ちにせまれるかなぁーと考えてみたけど、何となく首が痛くなってきた。そして、いつもキリンがおいしそうに葉を食べている木をみてみたら、やっぱり高い。あの位置に口がいくのだと思うと、やっぱりその大きさはすごい。だけど、その体に比べて糞はとってもかわいい。ころころしている。草食獣だからだろうけどくさくもないし、全くきたない気がしない。楽しくなってしまう。ちょうど色も黒いため、よく見ないと石とまちがえてしまう。だから、純ちゃんと協力?して、せっせと手で拾ってしまった。
うーん、やっぱり楽しい。糞拾いが終わったあと、キリン舎に入らせていただいた。そして、キリンを触ってもいいといわれた。そーっと近づいてみる。やっぱり大きい。その大きさに圧倒されてしまう。お姉さんキリンのアヤコちゃんが、取りつけてある餌箱にちょうど餌を食べにきたので、恐る恐る手をのばしてみた。顔のあたりだったので、触れないでいたらアヤコちゃんが興味深けにアゴをのばしてきてくれた。それで私はいっぺんに恐さがなくなって、ベタベタ触ってしまった。
”ありがとう、アヤコちゃん!”
もう、すっかり自信がついてしまい、弟のカズヤ君にも馴れ馴れしく触ってしまった。と、そこに大きなお尻があらわれた。お母さんの徳子さんだ。すっかり調子づいてしまった私は、失礼かなと思いつつ、その大きなお尻に触ってみた。軽くふれただけなのに、徳子さんは異様に驚いて、たったったっとかけだしてしまった。すると、川畠さんがあわてていった。『親は触れないんだよ。よく大丈夫だったなぁ』私はそこではじめて、自分のしてしまったことが軽はずみだったことを知って、徳子さんに謝った。『ごめんね。すみません。びっくりしたでしょう。ごめんね!!』
徳子さんを驚かせてしまった分、また、アヤコちゃんやカズヤ君をなでてわびた。(まったく関係ない?)だけど、ほんとうに徳子さんが、暴れださなくてよかった。
(次号につづきます)