でっきぶらし(News Paper)

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良母愚母 第十回(最終回)・オオサマベンギン

★オウサマペンギン(母になりそこなった)

 新しいペンギン池ができて、早いもので一年近く経ちました。しかし、このイメージチェンジした池の中をオウサマペンギンは泳ぐことはありませんでした。ジリ貧傾向の中で最後の一羽が、アシカ池の仮施設の中で、完成を目前にしながら心臓マヒで他界してしまったのです。
 最盛期には四羽もいました。フンボルトペンギンと違ってうんと大型のペンギンですから、非常に見栄えがしたものです。泳いでいても、毛づくろいしていても、さすがに「王様」と名付けられただけある魅力をいっぱいに溢れさせていました。鳴き声もひときわ冴え、大空に鋭く放たれた矢のようでした。
 そんな彼等も、静岡の気候風土にはとことん馴れ切らないようで、時に夏の暑さは辛そうでした。じっとしているだけでハアハアと荒い呼吸。見ているこちらまでたまらなくなるぐらいでした。そして、肺や内臓にカビの生える病気。アスペルギルス症が脳裡にチラつき始め、不安にかられました。
 体力が落ちるからアスペルギルス症にかかるのか、アスペルギルス症にかかるから体力が落ちるのか、その辺は微妙なところです。どうであれ、南極周辺を主な生息地とするオウサマペンギンは、ひと夏過ぎる度に数を減らし、彼等がやってきた六年後には、全て姿を消す結果となりました。
 でも、その間、彼等はただ泳ぎ、餌を食べていた訳ではありません。オス一羽にメス二羽になった時など、本来一夫一妻である筈が、ちゃっかり両方に関係を持ち、人間様顔負けのことまでしてくれました。それに有精卵も産んだこともあるのです。
 彼等の足と足の間の上に卵のうと言って、卵を温める場所があります。極地周辺では巣材らしい巣材はなく、かつ非常に厳しい気候風土とあっては、自らの体に包み入れて温めるのが一番賢明な方法なのでしょう。
 あと一歩。本当にあと一歩でした。姿・形がきれいにできあがり。もう少しでふ化するところまでこぎつけながら、中止。後にも、先にもこれ一回ぽっきりのチャンスでした。

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