48号(1985年12月)9ページ
良母愚母 第十回(最終回)・フンボルトペンギン
★フンボルトペンギン(良母にするもしないも…)
最も平凡なペンギンと思っていましたが、今では入手が非常に困難となっています。見た目の地味さとは裏腹に非常に貴重なペンギンなのです。最近では、二年半前になんとか一羽だけを入手することができました。
補充の理由は、ジリ貧傾向になんとか歯止めをかけたかった為です。過去の繁殖経過をひも解くと、アシカに負けず劣らずの実績?が横たえています。ふ化そのものはかなりの数に及びながら、育ったのは私の知る限りでも、四羽プラス一羽があるかどうか…。
私自身、十一年前にせっかくふ化までこぎつけながら、六日目に死なせてしまった苦い経験を持っています。その時の巣内の臭かったこと。ひなの腐敗も思いの他早く、解剖どころではありませんでした。
この話からも分かって頂けるでしょう。歴代の担当者は巣内の環境をどうするか、もっと細かく述べるなら、巣材に何を使うか、掃除をするべきか、更に例え親が面倒見ても人工育雛もやむを得ないのではないか、と悩み苦しみそして闘いました。
ロッキーと名付けられたフンボルトペンギンも、そんな中から産まれてきました。当時の担当者は、コアジ一辺倒の餌では、ふ化した二羽を全て親に任せて育雛は無理と考え、一羽を親に任せ、もう一羽を人工育雛に切り換えました。それがロッキーなのです。
コアジを泥状にして注射器にて与える。この方法を思いついて実践、それはロッキーの無事成長に止まらず、日本動物園水族館誌にその方法を発表するや各園館に大きな反響を呼び起こしました。今思うのは、さすがに日本の野鳥を始め、鳥の生態、生理に深く理解を示していた担当であったと言うことです。
この時、同時進行の自然育雛のほうもうまく育ちました。巣材にはワラを使用し、雨が降ったりして汚れると取り返るようにしていました。が、後の自然育雛時にワラがひなの胃内に入ったり、更に湿気を多分に吸う欠点があり、掃除の回数を増やさざるを得ず、その為に落ちついて育雛をさせられない状態を招いたりしました。
ただその中で「あれっ」と関心を引かせたのは、砂を下敷きにしていたことです。コンクリートの底冷えを防ぐうまい方法だと、関心させられました。
私が再度の担当を命じられた時、ワラと砂の間で心は揺れました。ワラは湿気を吸い過ぎるので恐いが、果たして砂だけで抱卵に心配はないかどうかです。
私の知り得る限りでは、ペンギンはそう細かい素材を必要としません。それより、同じ”てつ”を唐ワい為にも、巣内の衛生により気を配ったほうがよいようでした。それは一羽のひなが無事に育ったことで、自信を深めさせてくれました。抱卵中はそのまま、ふ化後は二週間内外のペースで砂を取り返ることによってうまくいったのです。
現在、新しいペンギン池は、”ペンギンは南極の氷の上にいる”の誤解には全くとらわれておりません。それどころか、巣穴は過去の経験を唐ワえ、ペンギンがより利用し易いように作られています。それを証明するかのように彼等はすぐ様産卵してくれました。それだけでなく、今現在も抱卵中です。
(松下 憲行)