でっきぶらし(News Paper)

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良母愚母第十回(最終回)・ヒョウ

★ヒョウ(新妻は愚母)

 子猫とさして変わらないヒョウの子が日光浴をかねて散歩。道ゆくお客様の足を止め、何とも微笑ましい光景をかもし出しています。九月二十八日産まれ、今が一番かわいい盛りでしょうか。
 でも、飼育係の手にゆだねられねばならなかったのは、何かがあってのこと、微笑ましくとも、かわいらしくとも、素直に喜ぶ訳にはゆきません。
 ヒョウに限らず食肉獣の仲間は、出産を迎える際、非常に神経質になるのは先刻承知です。単に育児放棄に止まらず、食べてしまうこともあるのですから、安静な環境を作る為に私達、獣医や飼育係も非常に神経質になります。
 十六頭も産みながら自らの手で育てたのはわずかに二頭。これは先妻に当たるヒョウの育児実績です。放棄、食殺を度々繰り返してくれました。一見、人馴れしていておとなしいヒョウでしたが、それで神経質さが和いだ訳ではありません。
 それだけに、新妻の出産には気を遣いました。クロヒョウやナマケグマの出産の際に使用し、効を奏した巣箱を設置し、一応安心して産めるであろう環境を作り上げたのですが…。
 何が気に入らなかったのでしょう。新妻のヒョウは、その巣箱を利用しませんでした。巣箱の手前に産み落としてしまったのです。しかも放棄、私達の期待を見事に破ってくれました。
 二頭の内一頭は死産で、もう一頭もコンクリートで体が冷え、取り上げた時は弱々しい息をしているだけでした。それだけでなく、ひどい斜頚、無事に育つかちょっとどころか、大いに不安を抱かせました。
 と言いながらも、ヒョウに限らず人工哺育の経験は、充分過ぎるぐらいの実績を積んでいます。斜頚も次第に直り、いっちょう前に悪戯もするようになりました。しばらくの間は、飼育係のペット的存在としてかわいがられそうです。
 さて新妻のほう、このようなことは今回だけで願い下げにしたいものです。いくら、このシリーズが良母愚母だからと言って、愚母の誕生はもうけっこうです。次回からは全ての願いがこめられた巣箱に馴じんでくれることを期待しましょう。

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