48号(1985年12月)11ページ
良母愚母第十回(最終回)・オオガラゴ
★オオガラゴ(育児に父親は邪魔)
移動する際、母が子をくわえて連れてゆくなんて、サルを知っているものにはむしろ奇異な光景です。母親の胸に包まれているか、おんぶされているかが、常識的なサルの母子のスタイルだからです。
原猿類(下等なサルの仲間)のオオガラゴを見て、驚かされるのはそれだけではありません。育児に関して、オス親は妨害的な存在ですらあるのです。真猿類の場合、特殊な例を除いて、育児に参加しなくても妨害的な役割を果たしたりしません。ダイアナモンキーのように、精神的な励ましを与えて愚母を良母に変身させた例もあります。
最初の繁殖は四月に見れたのですが、それは形骸だけでした。そして、その犯人はオス親以外には考えられなかったのです。元来の社会性の乏しさ、発情期以外はメスと行動を共にしない習性によるのが主たる原因でしょう。が、奪って食べてしまうとは、想像を超える行為でした。
確かに世界には様々な習性を持ったサルがいて、ラングールやヒヒのようにボスの座を奪うと子殺しに出るのもいます。でも、それは決して自らの子ではなく、結果として血の入れ替え強い子を後に残す”自然の摂理”が横たえています。無意味な子殺しはありません。
どうであれ、そんなオス親は出産予定日が近づけば、メスと一緒にする訳にはゆきません。オスは動物病院へ「島流し」ちょっぴりかわいそうな気もしますが、やむを得ないことです。
結果は、語ることもないでしょう。どうぞ夜行性動物館へお越し下さい。もうかなり大きくなって口にくわえたりすることはありませんが、親子が仲睦まじくしている光景が見られます。
(松下 憲行)