50号(1986年04月)5ページ
動物園の一年(前編)◎六月 動物病院てんてこまい、オランウータン・
春から初夏にかけてベビーラッシュが続くのは毎年のことですが、それは何も動物園だけに限ってのことではありません。野生の動物も大半はこの時期に繁殖します。で、落ちこぼれたのが、動物病院へやって来る訳です。
ツバメやらムクドリやら訳の分からない鳥のひなが、餌を求めてピーピー、ギャーギャー、ちょっと覗いただけでもたまらぬうるささです。これにハクビシンやタヌキの人工哺育が加われば、お手上げに近い状態になってしまいます。
それでも、動物病院の担当者は頑張らねばなりません。それらも動物園の大事な使命なのですから。
さて、再び園内に目を戻して繁殖の経過を見ると、キンケイ、ギンケイのふ化に始まって、ホンシュウシカ、キンバト、フルーツコウモリ、バン、ムネアカタマリン、フロリダキングスネークと続き、五月に比べ質的にはやや落ちたものの、量だけでは負けぬベビーラッシュが続きました。
中でもキンバトは三代目の誕生、哺乳類でも三代目は少なく、鳥類では初めてであろうと思われます。残念なのは、フンボルトペンギンがふ化寸前で死亡、バンがふ化翌日に行方不明になったことでした。
これら繁殖のニュースが沸く中で、人工哺育で育てられたチンパンジーのリッキーが、大阪市天王寺動物園へ放出されました。わがままなところがあり、よく「人様」に咬みつきましたが、それも愛嬌として受け取られ、動物園の職員にもずいぶん可愛がられていました。
それに母親を失ったオランウータン・ジュンの遊び相手としても活躍し、楽しい話題を提供してくれました。まあ、いろんな人の手を経て大きくなっただけに、人の顔色をうかがう術は充分に心得ているのでしょう。
このリッキーと入れ替わりにやってきたのが、オランウータンのベリー。いわゆるブリーディングローン、繁殖の為の貸し出しで、ジュンのお嫁さんとしてやってきたのです。生まれは横浜市野毛山動物園、本籍は愛知県犬山市にあるモンキーセンター、このややこしさは先程述べた理由故です。