51号(1986年05月)3ページ
動物園の一年(後編)◎十月 チンパンジーの死産、エリマキキツネザル
こんなことってあるのだろうか。チンパンジー死産の報を耳にして、率直にそう思いました。十月はすでに予定日内に入っており、職員が交替交替で夜間観察を続ける中、それはあまりにもあっけなく幕が明けて、幕が切れてゆきました。
せっかく生まれてきた赤ん坊は、わずかに呼吸しただけで他界。ヘソの緒が途中で結ばれていたのです。体重は二千百五十gで、雌でした。
他は何もかも正常であっただけに、無念の思いは募ります。でも、雄のポコ、雌のディジーは、まだまだ若いのです。次に期待しましょう。
これの次に、こんなこともあるのかと驚かされたのが、エリマキキツネザルの”逆いじめ”プロレス風にいうならば”掟破りのいじめ”ででした。
五月に待望の出産があったことは、先月号でお伝えしました。その子供が大きくなるにつけ、雄親をいじめ始めたのです。ひどい時には、夜間冷えるにもかかわらず、吹きさらしの放飼場にずっといたそうです。
縄張り意識の強い動物の場合、大きくなった子は自らの生活区域を荒らす敵として、いじめ出すことはままある話ですが、その逆の話なんて見たことも聞いたこともありません。おかしいやら、みっともないと思うやら―。
まあこれは、次の繁殖を考え、子を分けることで一応の解決をみました。
ある程度の間を置きながら、困った問題を投げかけてくれるのは、オランウータン。何とか同居が可能となり、後は月・日が解決してくれると思っていたのですが―。
雌のベリーがどうも右手をかばっているなあと思っている内、触られることさえいやがるようになりました。いやがった訳です。ひじを曲げることさえできなくなってしまったのですから―。
やったのは雄のジュン。ジュンしかいません。乱暴の限りをつくしたいジュンと、おしとやかに遊びたいベリー、その意識の違いと四kg程違う体力。体力の差が、こんな事故を生じさせたようです。
しかし、この時本当はもっと外の理由があって、それが大きな素因として内在していたことは見抜けませんでした。更に大きな悩みを引き起こすことになったのです。
他、この月は、昨年華やかな育雛活動をして大きな話題をさらったアオショウビンの雌が死亡。次への希望が、はかなく消えてゆきました。