52号(1986年07月)5ページ
思い出の動物達◎オランウータン・クリコ
三年余りに及ぶ気管支ぜんそくで、遂には肺炎をも引き起こし他界したのは、二年程前です。充分に覚悟、というよりもう時間の問題としてわきまえていながらも、いざ目の前にした時のやるせなさ。死んだ母親に必死のしがみついている子のジュンを自らの胸に抱き寄せた時には、さすがに込み上げてくるものがありました。
真っ赤に充血し、炎症を起こしていた気管。あちこちどす黒く変色していた肺。解剖されてゆくに従って見せられるそれらの病変は、今更ながらクリコの苦しかったであろう日々を思い起こさせました。
栄養状態はおおむめ良好。十キロ以上やせながらも、元々肥満の傾向があったところに必死になって、無理にでも食べさせ飲ませた結果でした。飼育係として最後の愛情と意地の結果でもありました。
クリコとの付き合いは、おおよそ十五年。こんな私をボスとして信頼してくれ、昭和五十一年の初産(直後に死亡)以来、計四頭出産し、私と二人三脚の育児を続け、多くの悲喜こもごもの思い出を築いてくれました。
大きく打てば大きく響く、小さく打てば小さくしか響かない、信頼関係を築くそんな“コツ”を教えてくれたのもクリコでした。
それにしてもその後よく見たのは、クリコと手をつないで何処かへゆく夢。夢の中でも不思議がりながらも、私はクリコの子を抱いて歩いているのです。クリコが本当の死を迎えるのはそれは私が死ぬ時かもしれません。