52号(1986年07月)12ページ
動物病院だより クジャクの親子 E.Y
ある日、「クジャクだ、クジャクだ」と子供達の騒ぐ声が聞こえました。どこにいるのかと、声のする方へ出てみました。なかなかわからず、売店の看板で、ちょうどからだがかくれて、さがすのに苦労しました。子供達がいなくなったら、又でかけていくだろうと別に気にもしませんでした。
ところが、三日たっても、四日たっても出ていく気配がありません。その中にコトコトと気になる音が一日に何回かするようになりました。屋根の上で巣作りを始めたようでした。気をつけていると、お腹がすいたとみえて、屋根からまいおりてでかけて行き、しばらく時が過ぎました。
思い切って高台へ上って背のびして見てみました。想像していたとおり、卵が三ツころがっていました。私は「いつ生まれるのか」と毎日楽しみに待っていました。待っている間、山でカラスの声がすると「ねらっているのではないか」「夜中に食べられてしまうのではないか」と心配でした。
しばらくして、運の悪いことにクジャクが巣を陣取ったすぐ近くに、大きな蜂の巣を見つけました。頭の上をブンブンまい始めたので、放っておくこともできないと思い、「どうにかして取らなければ・・・」と悩んでいました。
その時、樹木の消毒をしていたので、蜂の巣へかけてもらおうと交渉しました。
早速かけてもらいましたが、蜂の方は全然平気でクジャクの方があわててしまって、首を一尺ほどのばして困った様子をしだしました。しかし、卵を守ろうとするお母さん、さすが最後まで動くことなく、守り通しました。
それから三週間ぐらいたったのでしょうか。朝十時頃、いつもの様子とは違い、そうぞうしく鳴き騒いでいるのです。また高台へ上って見てみました。すると卵の殻がころがっているのが見えました。私は嬉しくて嬉しくてみんなに話しました。
翌々日、出勤してみますと、屋根の上をかわいいヒナがヨチヨチ歩いているではありませんか。親クジャクが「こうしておりるのですよ」と言って、教えているように思えたので、あんな高いところからどうやっておりるのか、心配で目が離せませんでした。
手をさしのべてやっていいものか迷っていると親クジャクがまいおりました。すると続いて二羽のヒナが、あるだかないだかわからないような羽根をひろげてまいおりました。一羽は、元気でおりましたが、もう一羽の方は、死んだようにうずくまってしまいました。もうだめかと思っていましたら、フッと気がついて歩き出しました。私はホッとしました。
三週間以上のお母さんの努力が実を結び、親子の旅が始まりました。どうぞ、カラスやネコにねらわれないで、成長した元気な姿を見せて下さい。