53号(1986年09月)8ページ
思い出の動物達(?U)◎キバタンのロロ
子供動物園を訪れると、様々なオウム類がかしましく賑やかに騒いでいます。そんな彼等を見ては思い出すのは、キバタンのロロ。
かつて、子供動物園のスターでした。反面とんでもないヤジドリで、誰かが何かしらの興味を引くようなことをしていれば、何処からともなくやってきて仲間入りしようとしました。
机の上のあれがない、これがないと騒いで犯人を探せば、たいていはロロ。いつの日のことでしたか、工事関係者が図面を置いておいたら、誰もいないのを幸い?図面をビリビリに破いてしまって困らせたこともあったそうです。
そんな悪さをしながらも、とても憎めなかったのがロロです。たいていなら、そこまで悪さをするのなら、カゴの中に閉じ込めてハイおしまいですが、決してそれはされませんでした。
子供動物園の担当者だけでなく、たまに訪れる私達でさえかわいいと思ったのです。それが元で、とんでもない“事件”さえ起きました。
誘拐されたのです。子供動物園を訪れたお客様の出来心でしょう。そのまま連れ去ってしまったのです。騒げばいいものを、そうしないところがロロの天心らんまんさ、かわいいところなのです。しかし、これには少々慌て、テレビ、ラジオでその旨を放送してもらいました。数日後、予想外の反響に驚いてでしょうか、園内の木の上にそっと戻されていました。全く人騒がせな話ですが、これもロロ故に起きたことでした。
最後までいたずら者でした。その日はたまたま私は休みだったのですが、みんなの話を総合すると、午後一時のいつものミーティングが終わる頃に、いきなり停電。そして原因を調べてゆくと、何者かが電柱の変圧器に触った結果とわかりました。
その何者かがロロでした。いつものようにあちこちを徘徊するうち、その日は電柱に目をつけ、よじ登っていたずらをしているうちに、そんな結果になってしまったようです。
たまたま子供動物園を訪れていたロロファンの子が、涙したそうですが、全く人間臭い鳥であっただけに、何ともいえぬショックがあっただろうと思います。
こうして、ロロは子供動物園から姿を消してゆきました。再び、こんなに人間臭い鳥が、私達の前に現れることはあるでしょうか。
飼育係一人ひとりの胸に刻み込まれている思い出の動物達は、こればかりではないでしょう。私自身にしたところで、全てを語った訳ではありません。
全てを語れるものなら語りたいのですが、動物によっては思い出がまだあまりにも生々しくとても言葉にならない場合もあります。
下手な文章ながら、やっと気持ちの整理がついたものだけを書いているのです。その思いが分かって頂ければ幸いです。
(松下憲行)