55号(1987年01月)5ページ
動物の食べ物 第五回【ダチョウ】
動物のことにそう興味のない人でも、まずダチョウは御存知でしょう。それぐらいポピュラー、いい変えれば、動物園にはなくてはならぬ動物のひとつです。
ですが、飛ば(べ)ずに走る鳥であることは分っていても、どんなものを食べているかとなると、意外と御存知ないのでは―。
実際にエサをついばんでいるのを見ても、いったい何をついばんでいるのか、お客様の見る位置からでは判り辛いものです。
担当者が、朝に調理したエサを入れたバケツを覗くと、大ざっぱに切られた青菜に養鶏配合、小鳥配合、小麦や青米、ボレー、魚粉等が混ぜられています。少し離れたところからでは判り辛かったエサの正体は、それらだったのです。が、何処の動物園ででも同じようなエサを与えているのかは、疑問です。
強い雑食性や体力の維持、あるいは繁殖を考えて、もっといろんなエサを与えたほうがよい、との考えや意見もあるからです。例えば、鶏頭を潰して切って与えたり、肉類も与えたりするのもひとつの方法でしょう。私自身も、繁殖がスムーズにいっている動物園では、どんな物をどんな風に与えているのか最も知りたいところです。
又、一年三百六十五日、毎日同じようにすんなり食べてくれるとは限りません。そんな時は担当者にとっても、獣医にとっても、一番頭の痛い時です。
何年前のことでしょうか。一週間丸々何も食べなくてほとほと手を焼き、もヤケのヤケクソ、目の前ならぬ目の横にあったツタの葉を与えたことろ、パクッ、パクッ、まさか、まさかのまさかだった、といいます。
後は、ツタの葉を丸めて与えながら根気よくエサの方へ導き、何とか食べてくれるようになるまで、これ又一週間程かかったといいます。長く飼っているといろいろなことがあるようです。
こっけいというか、悲惨というか、素頓狂にも逆に我が身を喰わせた出来事もありました。カラスが毎日ゝ背中をついばみにくるのに、全くしらんぷり。その内ぽっかり穴があいてしまったそうですが、痛くなかったのか、未だに不思議でなりません。
これをやられては、と頭を抱え込ませるのには、互いの羽根への関心があります。ついばみ始めたら最後、背中一面の羽根がボロボロになってもろ肌が見えてくるどころか、時には血がにじんでくることすらあります。ストレスが原因なのか、治す薬はなく、獣医もこれにはお手上げで、苦虫をかみ潰してしまうだけです。