58号(1987年07月)7ページ
オグロワラビーふしぎふしぎ 松下憲行【ふしぎパート?V母性愛って何?
食べてしまいたいぐらい可愛いとは、よく使われる言葉です。ですが、本当にそんな行為に出られたらたまったものではありません。
今年の七月の初め頃だったでしょうか。袋から三度も落ちながらも、ようやく自力で出入りできるようになったと安心して、ふと子の背中に目を見やると、二ヶ所が大きくはげ上がっていたのです。
いったいどうして、理由がわからず、けげんな気持ちになりましたが、しばらく観察を続けてゆく内に納得。子が親のところへゆき、袋に顔を突っ込んで乳を飲もうとする時、母親は子の背中を舐めるだけでなく、軽くながらかじってもいたのです。その度が過ぎて、遂には背中の一部がはげてしまう結果となったのです。(最終的には三ヶ所)
その光景を見て、今は病死していないもののもう一頭の人工哺育で育ったビビのことを思い出しました。彼女も、やたら自分の子をかじ喰ったのです。彼女の場合は耳でした。
もう若オスとはいえなくなったビビの遺児がいます。彼の耳をよく見て下さい。他の個体と比べてかなり短いことがよく分かります。
つまり、可愛さ余ってどうかは知りませんがまだ袋から出たり入ったりしている頃に、ビビがかじ喰って短くしてしまったのです。ひどい場合など、ほとんどないような状態にされてしまった個体もいたくらいです。
ビビ、ヒロに共通するのは、くどいようですが、人工哺育で育った個体であること。成長期の過程の大事な時期を人の手に任ねてしまったが故に何かを失わせてしまった、そんな気がしないでもありません。