64号(1988年07月)4ページ
ベビージャック・ダイアナモンキー
★ダイアナモンキー
「くれといっているんじゃないの。ちょっとの間でいいから貸して頂戴っていっているの。」「いや、絶対にいや。いやっていったらいやなの。」
今から四年前、ダイアナモンキーの長女の初産の時の母と娘の会話を人風にすればこうなるでしょうか。当時で母親は推定で十七〜八才。人なら乙女でもサルでは決して若いといえぬ年齢です。論より証拠。その時点で六〜七度の出産を経験していました。
もう生めないと思ったのかどうか、ずいぶん赤ん坊に執着し、長女のそばから離れようとはしませんでした。オスが間に入ってなだめているようではありましたが、母親のしつっこさに遂にトラブルが発生。
「いい加減にしてよ。もうしつっこいったらありゃしない。」と長女は強烈な一撃。がぶりと左ほおから肩にかけてをひと咬み。とうとう血をみる結果と相成りました。
幸い、母親の傷口は思ったより浅く(それでも傷口十三センチ、二十針の縫合)大事には至りませんでした。が、それにしてもかつては子の面倒を見なかった母親とは思えぬ程の強く激しい赤ん坊への執着でした。
その後死産を繰り返すこと二度。かつ二十才を超える年齢を唐ワえれば、もう彼女が小さな命を抱くことはあるまい、と私だけでなく誰しもがそう思ったのではないでしょうか。
ところがどっこい。驚くべき出産能力。その彼女が、八月八日にまさか、まさか、まさかでした。乳の出が心配になりましたが、子の動きを見る限りそれも大丈夫。
「ああ、誰の遠慮なしに力いっぱい抱くことができる。何といっても私の子だもの。」彼女は四年前のことを思い、そんな感慨に浸っているかもしれません。