66号(1988年11月)9ページ
巳年にちなんで ヘビ族よりひとこと
一九八九年は巳年、すなわちヘビの年です。ヘビはなぜか意味もなく人から嫌われます。ヘビをよく知っている人からすると、ヘビほど平和主義者でヘビ自身なにも悪さをしていないのに、なぜか嫌われる可愛そうな動物はいません。せめて巳年だけでも主役の座に、そんな思いでヘビの紹介をすることにしました。
ひと口に、ヘビといってもこれは一つの動物をさしているのではありません。動物分類学的にみると、爬虫綱、有鱗目のトカゲ亜目三七五一種に次いで二番目に多い仲間です。ちなみに同じ爬虫類の仲間であるカメは二四四種、ワニは二二種です。これを見てもヘビはけたはずれに種類の多いことがおわかりいただけるでしょう。
わが国に分布するヘビはというと、陸に生息するヘビが亜種を含めて三二種、海にすむウミヘビが九種、計四一種といわれています。世界のヘビの種類からすると、1.7%にすぎませんが、それでも一般の人が種類を上げて指おり数えてみてもとても全部はあげられません。そこで日本に生息するヘビをあげてみましょう。
「科」:種
「メクラヘビ」:メクラヘビ
「ナミヘビ」:
イワサキセダカヘビ、タカチホヘビ、アマミタカチホ、ヒメヘビ、ミャラヒメヘビ、リュウキュウアオヘビ、サキシマアオヘビ、アオダイショウ、シマヘビ、ジムグリシュウダ(ヨナグニシュウダ)、サキシマスジオ、シロマダラ、アカマタ、アカマダラ(サキシママダラ)、サキシマバイダラ、ヒバカリ、ヤマカガシ、ガラスヒバア(ヤエヤマヒバ)、キクザトウサワヘビ
「コブラ」:
イワサキワモンベニヘビ、ヒャン(ハイ)、エラブウミヘビ、ヒロオウミヘビ、マダラウミヘビ、アオマダラウミヘビ、イイジマウミヘビ、セグロウミヘビ、クロガシラウミヘビ、クロボウシウミヘビ、トゲウミヘビ
「クサリヘビ」:
ニホンマムシ、ヒメハブ、トカラハブ、サキシマハブ
この表の中に、あなたが知っているヘビは何種あったでしょう。さてわが国のヘビで変わり種といえば、体長13センチのメクラヘビです。このヘビは世界各地の熱帯、亜熱帯地方に分布していていますが、わが国ではトカラ列島以南の南西諸島および小笠原諸島の父島にしか分布しておらず、一見ミミズと思わせる体形をしています。
よく見ると体には鱗があり、一応ヘビの形態を持っています。なにせ住んでいる場所が地中。また食べている餌もアリややわらかい昆虫など。地中に住むために目も退化してきわめて小さいことからこんな名前がついたものと思われます。このヘビは、植木などといっしょに運ばれやすく、鹿児島や長崎県にも分布をひろげているといわれています。
ヘビというとなぜか人様に嫌われる身で、あまり大事にされることはありませんが、そんな中でも国の天然記念物に指定され、立派に保護されているヘビもいるのです。それはアオダイショウの白化個体(アルビノ)です。色素形成が阻害されるため、全身が乳白ないし、黄色っぽい白色をしており、眼は血液の色が透けてみえ、赤く見えます。
シロヘビは神の使いとされ、山口県岩国の生息地が天然記念物に指定されています。
次に、わが国には毒ヘビはいくついるのでしょう。コブラ科に属するウミヘビを除いてみると、七割が無毒ヘビで、残りの三割が毒を持つヘビだといわれています。一応毒ヘビとされるものを挙げてみると、
コブラ科 イワサキワモンベニヘビ、ヒャン(ハイ)
クサリヘビ科 ニホンマムシ、ヒメハブ、ハブ、トカラハブ、サキシマハブ
ナミヘビ科 ヤマカガシ
以上の八種類です。この中でもふだん私達が身近に感じるのは、ヤマカガシ、ニホンマムシぐらいです。ハブやヒメハブなどは奄美諸島におり、ちょっと私達の手に届く場所ではなさそうです。
さて、ヘビの体をよく見ると、哺乳類とは違ったいろいろな不思議なことに出会います。そこで絵を見ながら、私達人間や他の動物達とヘビの違いをみてみましょう。
(1)舌
いつもペロペロ。先はふたつに分かれています。実は、これは臭いを嗅いでいるのです。舌で臭いのする物質を集めて、上あごにある臭いに敏感な器官に運ぶのです。
(2)眼
ヘビのまばたきを見たことがありますか?
実はヘビには動くまぶたがないのです。でも透明なコンタクトレンズのようなまぶたで保護されているのです。
(3)口
ヘビは、食物をよくかんでは食べません。ヘビは獲物を殺した後、丸飲みにします。自分の口より大きい物も食べられます。その秘密は、アゴの骨にあります。アゴの骨をはずして、少しずつ中に送り込みます。入った後はアゴを元にもどして、それで終わりです。
もうちょっと専門的に説明してみましょう。まず、大きな餌をのみこむ時、下あごは、翼状骨をなかだちにして上あごとつながっているので、大きく開くことができます。また、下あごの先も、のび縮みするじん帯で結びついている為、左右の下あごを別々に動かすことができるのです。
このような特別なあごの骨のしくみと、斜め後ろを向いている歯の助けで、たくみに餌口の奥へと送り込んでゆきます。
(4)ウロコ
ヘビには足はありません。でも歩けます。その秘密は、このウロコにあります。
ヘビの運動の中でもっとも代表的なものは、からだをくねらせて前へ進む方法です。この運動を「だ行(蛇行運動)」といいます。この方法で前へ進もうとする時、からだが横にすべらないようにすることが必要です。それには腹側にある幅広いウロコ(腹板)の両端が角ばっていて横すべりを防いでいます。ブルドーザーのキャタピラのような役目をしているわけです。
(5)足
ヘビに足はあります。「えっ、ないって言ったばかりなのに…」あると言っても、全部のヘビにあるのではありません。ニシキヘビの仲間には、肛門の少し上の両端に、足の痕跡の「ケヅメ」があるのです。オスで一センチ位、あまり用は足さないようですが…。
(6)脱皮
人の皮膚からふけやあかがはがれるのと同じしくみです。ただ、脱皮では身体全体に一度におこり、一度に皮膚がはがれるのです。
健康状態にもよりますが、二ヶ月に一回ぐらいは脱皮します。何と眼までむけるのですヨ!!
(7)卵
ヘビには、ボアやマムシのようにお腹の中で卵がかえって子ヘビで生まれるものもあります。動物園では、砂やミズゴケに入れて温度や湿度を保って人工的にかえします。左の卵は、ヒイロニシキヘビのものです。当園において、昨年六月二十四日に十七個産卵しました。
そして九月四日に卵より頭をだし始め、二日後の九月六日に三頭、計翌日一頭 四頭ふ化しました。これは、日本の動物園では初めてのことです。全長四十センチ、体重は七〇〜七十九グラムありました。現在、四頭とも順調に大きくなっています。
(小島 昭一)
★ヘビのからだのしくみ
ヤコブソン器官:
上あごにあるヤコブソン器官というにおいをするどく感じる器官で、空気の中に残っているにおいをかぎとる。
けいせん:
首から背中にかけて、いくつかのけいせんという袋(毒腺の一種)を持っている。しかしこの毒腺の出口はなく、何のためにあるのかよくわかっていない。(ヤマカガシにあります。)