71号(1989年09月)1ページ
一九八九年繁殖動物を追う(?U)小型サル編【ムネアカタマリン(お前に
出産回数だけを見れば、アカテタマリンに次ぎます。しかしながら、その中身には雲泥の差があります。
夫婦仲が悪いのかって、育児が下手なのかって、答えはいずれも「いいえ」です。問題は、母親のどうしようもない“悪癖”にあります。
面倒は、しっかり見ます。しかし、子を傷物にしてしまっては…。
子の尻尾を食べてしまうのです。私は現場を見てませんが、前担当者はラーメンをすするように食べていることろをしっかり目撃したそうです。
これでは、いくら数を増やしてくれても苦虫を噛みつぶすだけです。展示するだけの価値もなければ、通常の行動にも差しつかえが出て来ます。(バランスが悪く飛び跳ねればすぐにひっくりかえる。)
今年一月の出産をひかえた時、私のイライラは頂点に。「もう、あの母親には任せられない。生まれたら、子はすぐに取るぞ」ときつく獣医に迫りました。かすかな希望を抱く獣医は、「待って、かつて二頭での静かな環境におかれていた時はちゃんと育てているから、もう一度そんな環境作りをして」と更なる忍耐を説きました。
私とて、子はできるだけ取りたくありません。それぞれの親が大きくすべきで、飼育係は万策尽きたやむを得ない時だけ関与する、といい切ってもいいでしょう。
淡い期待はもろくも崩れました。生まれて三日も過ぎた頃、二頭の子は見事?に尻尾を食べられていたのです。「もう、愛想もクソも尽き果てた。このパカヤロー」そんな風に怒鳴りたい心境でした。
九月、今年二度目の出産が迫った時、今度は問答無用で取り上げるつもりでした。しかし生まれた当日に、母親はすでに一頭の子の尻尾を食べてしまっていて、父親の背にのっかっていたほうだけがかろうじて無事でした。
人工哺育する中、尻尾の切れたほうは貧血状態が災いしたのでしょう。十日も過ぎた頃にあえなく肺炎で死んでしまいました。それにしても、新たな問題を投げかけるムネアカタマリンまだまだ悩みは尽きません。
(松下憲行)