71号(1989年09月)6ページ
待ちに待った赤ちゃん誕生【オオアリクイ(ムチャムチャ)】
今日こそは必ず生まれるだろうとの期待も毎日のように裏切られ、気力も失いかけ弱気になりかけた9月29日の朝4時、また今日も駄目だろうと、アリクイ舎のドアを開けた瞬間、強烈な血の匂いが鼻をつきました。急いで灯りをつけると、通路といわず寝部屋といわず血だらけ、壁にまで血が飛んでいる、しかも子の姿も見えません。「しまった!!」という思いと同時に、全身から血の気が失せて、鳥肌がたちました。
思いなおして寝部屋に入り、親の尾を持ち上げると、腹のことろに子がもぞもぞと動いていました。既に臍帯もきれており、子の身体も乾いていました。床の血も乾いている事から、かなり早い時間に出産したものと思われました。
さっそく子を母親の乳首につけ、介添え授乳を試みると、子は乳首を探し、吸いだしました。なかなかうまく乳首をくわえることはではませんでしたが、とにかく自分から飲むイ意欲があって安心しました。
落ちついた気分になった時、八木獣医からの生まれた時は必ず連絡をとの言葉を思い出しました。しかし早朝でもあり、寝心地のよい時に起こすのは気の毒と思い、しばらく考えましたが、報告は早い方が良いだろうと電話を入れました。
それにしても、母親はかなりの難産だったようで疲れきっている様で、朝がたは子を気にしている様子が見られましたが、やはり時間がたつにつれ、子の面倒をみる余裕がなくなってしまいました。
2日間そのような状態が続きましたが、3日目から急速に体調が回復して、目付きもおだやかになり、落ちつきがでてきました。
子は大きく逞しく体重も1600gと特大でした。名前はスペイン語で、お嬢さんという意味の「ムチャチャ」と名付けました。名前のように淑やかに育ってほしいものです。
子は日が立つにつれ、乳の飲み方も上手になりました。アリクイの乳の飲み方は、舌を口の横にだして置き、口先で吸い付いて飲むという変わった方法です。
アリクイ自体、不思議な動物で2月26日に1頭出産したのですが、頭部内出血で4日後に死亡してしまったのです。今回の出産は、前回の出産より216日目。妊娠期間は、約190日と云われていますから、出産後わずかの日数で妊娠したことになるのです。
7月中旬、乳腺の張りに気付いたのですが、まさかと思い、自信はありませんでした。が、その後も大きくなり8月11日には乳汁も出て、妊娠はほぼ確かなものと思われました。
ただし出産予定日の見当がつきません。とにかく前回のような失敗は許されません。そこで寝部屋には厚さ1センチのゴムを壁に貼り、床にはベニヤを敷いて準備を整えました。
9月に入り、オスと別居させましたが、動作も鈍くなり、日中寝ている時間も多くなり、呼吸数もふえ、前回の出産前の状態と同じになりました。しかし、待てども待てども生まず、暑い夏から準備して涼しい秋になってしまいました。
しかし生まれて見れば、そんな苦労も忘れてしまい、今は元気に育っている姿を見て、楽しくて仕方がありません。子が腹いっぱいミルクを飲んで母親の背中に乗っている格好は、可愛くもあり、ユーモラスでもあります。
(後藤昭)