73号(1990年01月)4ページ
アクシスジカを語る【やさしさが帰ってきた中で…】
シカは草食獣。元々恐い動物ではありません。ましてやアクシスジカは至って小心。何かあっても逃げることしか身につけていない、といっても過言ではない動物です。
面倒を見てしまえば、本当におとなしい。あれは何かの勘違いだったのだろうか、と思った程。元来の美しい澄んだ目が、そこにありました。
そうして面倒を見ていて、日々を積み重ねてある日!?「こいつ何処か悪いな。何か慢性的な病気を持っていやがるな」と。いわゆる飼育係の“直感”です。
おとなしく人馴れしていて、そして立場はボス。餌を与えれば真先に食べに来ます。餌場に置くか置かない内に食べようとしますから、大きな角が私の頭にコツンと当たるなんて珍しくありませんでした。
問題は、日々のそんな単調な繰り返しの中でのオスの変化です。何となく餌場から去る早さに、あれっ。
そんなに気性は激しくありませんから、マークしている若オス以外とは、いつも一緒に食べているのですが、離れるのが一番早いのです。体が一番大きくて、一番たくさん食べていい奴が、一番先に離れるのはやはり変です。
でも、外見上はそんなに変化があった訳ではないので、何となくいやな感じがすると、ただそんな風に受け取めていただけでした。
それは、角に表れました。一年に一度、角は落ちて生え代わるのですが、その際の体力の消耗は大変なものです。角が生えてゆくに従って、オスの“やせ”が目立ち始めました。