75号(1990年05月)2ページ
あらかると
★人工アリ塚
他園でもよく見られるようになった人工のアリ塚。当園のチンパンジーの運動場にも取りつけられました。ストレスの解消と日中の動きを活発にしようとするのが狙いです。
アリ塚の中には、アリならぬオレンジジュースをお湯でうすめ、少量のハチミツを加えられたのがバットに入っています。それを周囲の数ヶ所の穴より小枝を入れて、浸み込ませて取れるようにしてあります。
最初に手をつけたのは、オスのポコでした。以前に飼育されていた多摩動物公園ですでに学習していたのです。あれから相当の年月が経過しているのにしっかり覚えていたところは、さすがにチンパンジーです。
他の二頭は、最初は不思議そうな顔をしてポコの仕草を見ていましたが、その内おぼつかない手つきで真似をし始めました。
このジュースを浸み込ませてくれる小枝、どの木の小枝が最も効率がよいのか、とっかえひっかえ色々の種類の小枝で与えました。そんな中でヤナギの小枝の時は割と落ち着いて使うようになりました。
この頃では他の木の小枝だと道具にせずに食べてしまうことがあり、ヤナギの小枝の時だけすぐにアリ塚にむかいます。邪魔になる部分を上手にはがし、少しずつ穴の奥へ差し込み、目的のジュースをたっぷり小枝に浸み込ませて舐め取ります。
なかなか要領もよく、差し込んだのを戻す時にジュースを少しでも下に落とすまいと、穴の入口に口を持ってゆき、すぐ様小枝にしゃぶりつきます。
昨年の三月に生まれたピーチ、親達のする事を早くも真似。下手な手付きでヤナギの小枝を拾っては穴に差し込んでいます。ジュースにまで届くのはたまで、その時はおいしそうにしゃぶっています。
アリ塚を始めた頃に比べると最近は暑さも厳しく、バットの底が見えるぐらい減っている日もあるぐらいです。と言う事は、かなりの時間この行動が見られる訳です。
私達ですら見飽きないその仕草、人間臭いおかしさ、面白さ、お客様方もじっくり御覧になれば楽しい事受け合いです。
(池ヶ谷 正志)
★足を傷めたキリン
すっかり寂しくなったキリン舎。今ではたったの二頭になってしまいました。それに放飼場で見られるのはとなると、子供のシロウ一頭だけ…。
母親のトクコは三月にどうも腰を傷めたらしく、以来歩き方がぎこちなくなりました。それに止まらず、後肢をかばい、前肢に体重をかける歩き方に遂にはびっこをひくようになってしまったのです。
前肢は、数年前にねんざをしてちょっとしたことですぐにびっこをひくぐらい弱っていました。そこへ自分の大半の体重をかけてしまうのです。朝夕に消炎剤をつけ、治療し続けても、少々のことでは治りません。
六月下旬、いつもより歩き方がよいので、気分転換をさせようと久々に放飼場に出しました。昼少し前、お客様からキリンが柵の中に足を突っ込んで動けなくなっているとの通報です。トクコはどうしたことか室内との出入口のません棒に、悪くない方の前足でまたいでしまっていたのです。
腰ともう片方の前足が悪い為に暴れられなかったのがよかったのでしょう。足を折ることもなく、ません棒を抜くだけで済みました。が、今度は悪くないほうの前足の関節をも傷めてしまいました。
もう歩くどころか立っていることすら大変そうで、今まで昼間座っているなんて見たこともなかったのに、ここのところは四〜五時間座っているのを見かけるぐらいです。
消炎剤の注射を吹き矢で討つのですが、たまらないようで傷めている足で私達に蹴りかかります。年令も中年になり、はかばかしく治ゆに向かいません。
それでも一日でも早く元気を回復し、二頭で放飼場を駆け巡るのを願わずにいられるでしょうか。
今は室内でじっとしているだけですが、どうぞ静かにそっと見守ってあげて下さい。
(佐野 一成)