でっきぶらし(News Paper)

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動物園こぼればなし 〜 まだ、これからが大切なんです。 〜

 5月7日の朝、学校に出勤すると、クラスの生徒が泣きながら、「先生、タヌキを助けて!」と訴えてきました。話をきけば、車にはねられて大ケガをしたタヌキを学校の保健室に運んできてあるとのこと。様子を見にいくと、タヌキはぐったりとしていました。早速動物園に運ぶことにしました。
動物園の方に見せたところ、「危ない状態だ。」と言われ、生徒達に正直に話すと、みんながっかりし、数人の女の子は泣きだしてしまいました。しかし、うそはつきたくなかったですし、このような出来事をしっかりと真正面から受けとめて考えてほしいこともあって、心を鬼にして事実を伝えたのです。
 それから2日後、自分で電話をかけるのが怖くて、同僚の先生にお願いして動物園に電話をしてもらいました。すると、「点滴はしているけど、檻の中で歩けるようになった。」と思いもよらない話。早速生徒達に伝えると、教室は歓声の嵐。学級がスタートしてから1ヶ月半、こんなに素晴らしい生徒の顔を見たのは、初めてだったように思えました。
 そして生徒の間に、動きがでてきました。こんな事故を二度と見たくない、だからポスターや看板を作って地区の人やドライバーに呼びかけたい、そんな意見がたくさん出てきたのです。
 私もそれを受けて、実際にその活動をやってみることにしました。この活動には、プロジェクトR(Rはタヌキの英名の頭文字をとったもの)という名がつけられ、ポスター、看板、調査、広報の各部隊に分けて、今なお行動中です。

 6月12日、雨の中をタヌキは無事に山に帰りました。タヌキを見送って学校に帰り、教室に入った生徒達の顔は心なしか力が抜けているようにも思えました。その様子を見て、私は今後のプロジェクトの活動が停滞するのではと、不安になりました。
 しかし、それは余計な心配に過ぎなかったのです。翌日、生徒の日記には「これからも一生懸命活動したい。」といった内容が書かれていました。また、「県内や全国のニュースで報道してくれたんだし、いいかげんな活動はできないね。」という生徒もいました。
 そうです。まだこれからです。これからが大切なのです。せっかく、この出来事を通してクラスがひとつにまとまり、みんなが夢中になれるものが見つかったというのに、ここでその情熱を失うわけにはいきません。むしろ、これからが本番なんです。そのことは私よりも生徒の方がよくわかっていたようです。
 生徒をこのような気持ちにしてくれたあのタヌキに、今はお礼を言いたい気分です。
(静岡市立大川中学校 教諭 岡野文寿)

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