でっきぶらし(News Paper)

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コモンマーモセットのコモン(平凡)でない歩み

(松下 憲行)
 俗にポケットモンキーとも呼ばれるマーモセット、単に小さいだけでなく不思議な食性と不思議な習性を持ったサルです。ちょっとした給餌のミスがすぐに栄養障害につながったり、赤ん坊の面倒は家族みんなで見たりするのは、他に見当たりません。
 この中のコモンマーモセットについて、少し語ってみたいと思います。名は平凡(コモン)でも、ここまでに至る経緯は決して平凡ではありませんでした。
 三年前の今いるメスの初産にしてからが、ドラマチック!?です。出産直後、オスが抱いていたのはいいとして、一向にメスに渡そうとしないのに不吉な予感。で、心配になって翌日早出してきた獣医と私の目の前で、子は抱きつく力も失せて台の上に横たえました。不吉な予感は的中し、やむなく人工哺育に…。
 二度目、三度目、今度は当園生まれのオスが育児の無力ぶりを発揮。メスにせがまれて抱いたりおんぶするまではいいのですが、すぐにいやがって何をするかと思いきや、メッシュの金網で子をこすって引き離してしまうのです。地上までの約1.5メートルをストーン、子はよく怪我をしないと思いましたが、これもやむを得ず人工哺育に…。
 人工哺育する場合、たいていはメスの何らかが原因してです。育児能力の欠如の他、乳が出なかったり弱ったりしてです。オスの育児能力が欠如しては、この時以外にはなかったし、恐らくこれからもないでしょう。他園の方に伺った話ですが、末っ子は育児下手になる傾向があるそうです。
 いくら当園生まれでも、こんなオスと一緒にしておく訳にはゆきません。で、他園から養子を迎えました。見合い?そんなまどろっこしいことはなし。オスと分け十日程過ぎて寂しがっているなと思った頃にポンと一緒、それで同居作業はおしまいです。トラブル?男と女、互いに付き合い方さえ知っていれば起きないものです。
 この時、すでに前のオスの子がお腹に入っていて、それから間もなく生まれました。自分の子じゃないと、オスは邪険にするんじゃないかと思われますか。体はちっぽけでも、心は決してちっぽけではありません。
 とは言え、最初の十日間ぐらいはずっとメスが面倒を見ていました。まともなオスならその間“可愛い”“抱きたい”との衝動にかられていた筈です。誰の子であろうと我が胸に抱き寄せたかった筈です。
 それを証明するかのように、一度メスがオスに子を任せると、比重は一気に逆転。メスが子をおんぶしているのは稀になりました。哺乳の前後以外は、滅多に見られなくなったぐらいです。
 さあ、こうなると賑やかな家族形成へまっしぐら。人工哺育の心配もなくなれば、私の気苦労も減ると言うものです。だがしかし、コトはそう甘くは運んでくれませんでした。
 昨年の三月末、予定より十日以上も早いと思われる出産跡がありました。そう述べるしかありません。多量の出血跡は明らかに出産を意味していましたが、子は影も形もなかったのですから…。
 子は、早産死。そして、それをオス親が食べてしまった、私の推測です。誰も見た者はいませんが、彼らは強くストレスを受けると食べてしまう傾向があるし、食性もかなりの肉食性の強さをうかがわせます。
 当たりがどうか、面白いことにそれから五ヶ月経て再び出産した後のメス親、オス親に子を渡そうとしないのです。子を欲しがっている表情がありありにも拘らずです。メス親の強烈な拒否にあって、どうしようもありません。
 子が少し大きくなって、十日も経ってからようやく任せてもらえるようになりました。そこに何があったかは想像するのみですが、非常に人間臭くとらえたくなるような光景ではあります。
 そんな勝手な想像をしつつ、これで落ち着くと考えましたが、これ又甘い。次に妊娠した末期、つまり今年の一月、メスはいつになく疲れた表情をしていました。
 しっかり食べそこそこ動くのですが、とにかく体が重そうなのです。早産も含めれば次はもう八回目。そろそろ年齢の衰えを見せる頃かとも考えましたが、それにしても…。
 私が予定日として○をつけたいちばん最後の日、一月三十日に出産。メス親はぐったり、赤ん坊はオス親と兄にあたる子が抱いていました。とにかく無事出産にほっと一息です。
 冬場の数少ない出産とあって、早速どこやらの社が取材です。六頭が運動場と寝部屋を出たり入ったりする中で、あっと驚く何とやら、二頭とばかり思っていたのに、三頭も生まれていたのです。
 オス親の背中に一頭、そして兄オスの背中に一頭、次にその兄の胸からもそもそもそ、小さな頭の数は間違いなく三つです。これじゃあー。母親のへばっていた理由がよく分かりました。
 あのちっこい体で毎度毎度二頭でも凄いと思っていたのに、三頭もとはただただ感心するばかりです。でも文献によると四頭も五頭も生んだ例があるそうですから、上には上があるものとなお一層感心させられます。
 一頭は四日後に死んでしまったものの、後の二頭はすくすく、計八頭、運動場を所狭しと賑わっています。賑やかになったらなったで、今度はどんな問題を投げかけてくるでしょうか。

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