79号(1991年01月)3ページ
あらかると
★掲示物とお客様の反応
今までフラミンゴ舎横の掲示板に動物の親子の写真を張り出し、成長する過程の様々な変化や面白さをアピールしてきました。反応も上上で、「可愛い」とかの言葉がしょっちゅう聞かれました。
しかし、シーズンが過ぎると「ネタ」がなくなるのが頭痛のタネ。体の違いとか、この鼻は誰でしょうかとか、子の成長過程とかで穴埋めしてきましたが、親子の写真程の手応えがありません。
そこで一案が閃きました。それぞれの獣舎で掲示すればどうだろうと。まず一番手はマレーバクです。
マレーバクを見ながら、マレーバクの子のうり模様が消えてゆく様子を写真で見られるようにしたのです。多くのお客様の足がそこで立ち止まりました。
アクシスジカの角の伸びる変化なんかも面白いのでは、と思い早速とり掛かりました。キリン舎も四郎一頭だけしか見られなくなったので、出産シーンの写真を掲示するようにしました。どちらも好評で、日曜日にはかなりの人だかりができるほどでした。出産シーンの足と顔が出てくるのを見て驚き目を輝かせるお客様の顔を見て、今度はオグロワラビーの袋の中の子が育つところを、と思いつきました。カラーにしたので見映えがよく一段と受けたのはよいのですが、隣のモノクロのアクシスジカの写真が色あせて感じてしまうほどでした。
見るだけでは物足りないだろうと、触れて触って楽しんでもらうことも考えました。担当者からも出ていた案、ダチョウの卵の重さを直接手に持って感じてもらうことです。
でも、どのようにすればいいのか、なかなかいい方法が思いつきません。いろいろ工夫する中で、三つの条件が必要であることが分かりました。卵が外から見える、子供の手でも持てる、外へは出せない、です。
土台をコンクリートで固め、高さ約八十cmぐらいのところに周囲をアクリル板にした、前から手だけ入る箱を据えました。少し落としても大丈夫のように、下には人工芝を敷きました。
中身を抜いて、中に砂と綿を入れコーキング剤で固められた卵、ずっしりとした重さは本物とほぼ同じです。しかし、触って軽く持ち上げながら、本当に本物かと疑われるお客様の多かったこと、多かったこと。
それでも、日曜日など一人が触れるのを機にどっと人だかりの山ができるのを見ると、クリーンヒットを飛ばした気分です。これからの動物園の課題でもあるだけに、もっと喜ばれるものを考えていければと思っています。
(佐野 一成)
★アメ玉はしゃぶらせない
ある日、いつものようにオランウータンのベリー(メス)にミルクを与えた後の事です。容器を洗っていてちょっと目を離した隙に、観察室に入り込みました。
私が気がついて戻ると、大慌てで自室へ一目散です。でも、その様子が何か変。「あれっ、あいつあそこで怒られるような事をやらかしたな」と、後を追い駆けていけば、台の上に座って何かを口に含んでいます。
口を開けさせ中を見ると、アメ玉が三こ。取り上げてから、他にも何かいたずらしていないかと戻って調べて見ると、ただアメ玉の袋が口をあけ少し残っているだけ。この間買ったばかりで、まだかなり残っている筈なのにです。
さてはどこかに隠しているなと、ベリーの部屋に戻って座っているところをどかせば、お尻のあった辺りからアメ玉の山。取り合えずアメ玉の袋をあけて口に入るだけ含み、自室に戻ってからゆっくりしゃぶろう、と思ったのでしょうか。
それにしても、私の机の上にはクッキー、せんべい等もあったのに何故手をつけなかったのでしょう。においはしたかもしれませんが、クッキーやせんべいと違って、袋の中に入って見えなかったアメ玉に手を出したのでしょう。
はたと、思い当たりました。毎朝体温を計っていますが、その時私はアメ玉をしゃぶっている事があります。ベリーが唇を突き出して欲しがる素振りを見せますが、虫歯を心配して与えた事はありませんでした。
それが観察室に入った途端、長い間欲しかったものの手に入らなかった物のにおいがするので、他の菓子類には目もくれずに大急ぎで口に含んだのでしょう。
長い間、ベリーに罪な事をしていました。それ以降は、体温を計る時には、獣医より頂いたビタミンC入りの錠剤をベリーと一緒になめています。
(池ヶ谷 正志)