81号(1991年05月)4ページ
動物病院だより
いよいよ夏休み突入で、大喜びの皆さん、お元気ですか?
四月から八月にかけては繁殖シーズンとなり、私達にとってとても楽しい時期となります。ところが、今年はなかなかおめでたのニュースが聞かれず、少々心さみしい思いがしています。
そんな中で、四月二十九日のチンパンジー、六月八日シシオザルの出産には救われた気がしました。残念ながら両方とも母親はめんどうを見てくれず、人工哺育となってしまいましたが、チンパンジーは「エディ」、シシオザルには「ゴクウ」と名前が付けられ、担当者が一日五回人間用粉ミルクを与えています。
チンパンジーの「エディ」の母親のディジーは、今回で三回目。一番目の「リッキー」は天王寺動物園に、二番目の「セディ」は上海動物園にいっています。一番目の「リッキー」の時は、よく感冒にかかったり、便で身体を汚したりして、けっこう大変だった記憶があります。そして、セディの便はコロコロ、おむつや身体を汚さずにすんだ気がしていました。それ以上に今回のエディは、一日排便なしということがあり、飼養効率抜群!!飲んだもの、すべて身になるようです。「洗たく、大変だから、遠慮しているのかもしれないヨ」と。
シシオザルの「ゴクウ」は今回初産、朝、代番の石井飼育課員より「床に出血があって、出産しているんだけど、子供ダメかもしれない。」と連絡が入りました。急いで中型サル舎にかけつけると、子が、排水口近くにうつぶせになって横たわっていました。持ちあげると、体温はさがっていましたが、少しないた感じがありました。
さっそく動物病院にもどり、ぬるま湯にまず子の身体をつけ、じっとさせておきます。それから少しずつ、湯をあつくし、マッサージしていきました。「さあ、がんばれヨ」子の身体をさすりながら、そんな思いがありました。しばらくして、少しずつ身体を動かすようになり、一時間ぐらいたつ頃には、手足にかなり力がついてきたように思われました。
当初、こんな状態がひびいたのかケイレン状態があって心配したのですが、哺乳状態や体重増加も順調になってきています。
「エディ」と「ゴクウ」の日光浴を、動物園の中央芝生広場(オグロワラビー舎横)でやっていますから、よろしかったらおでかけ下さい。
次に今回新着した動物を紹介しましょう。夜行性動物館に展示されたフタユビナマケモノです。この動物は、ベネズエラ、ブラジル北部の森林にすんでいます。名前のとおり、前肢には二つの爪があり、その爪を使って小枝をひっかけ、ほとんど木にぶらさがって生活しています。
ですから飼育する場合も、バナナやリンゴ等を、針金にさしてぶらさげて与えています。今回、来園した個体の好物はなんとキュウリでした。
展示する前に、二週間ぐらい病院で検疫していたのですが、来園して翌日のぞいてみると一頭は、オリの途中にあるコンクリートのでっぱりに腰かけ、もう一頭はなんと床にすわり、オリに手をかけて丸くなっていました。次の日も、その次の日も次の日も。確かナマケモノは、枝にぶらさがって生活しているというのに…。これでだいじょうぶか、少々不安になり、現在飼育している伊豆シャボテン公園に電話して、獣医に聞いてみると「前回死んだ個体が、死ぬ前そうだったヨ」と言う始末。「まいったな、だけど、餌はよく食べてあるし…」そんな思いで入ると折りかえし電話があり「担当者に聞いたら、時々、下におりているようです。」とのこと。ほっとし、六月八日、夜行性動物館に展示するにいたりました。
夜行性動物館の獣舎内でも、丸太に腰かけて眠っていたり、台のところにいたりしています。自然界でも、コアラのような寝方をしているんじゃないでしょうか…。
こんなふうに仲間がふえていくことばかりなら良いのですが、今回も悲しいニュースをお伝えしなければなりません。キジ舎の一部屋にアンデスコンドルが展示されているのを御存知ですか?このペアは、とてもおとなしくて、抱卵中に入室しても決して人間にむかってくることはありませんでした。今年も四月十日に産卵が見られました。その後、交尾が見られたので無精卵とも考えられたので、とりあげ、二卵目をまかせることにし、一卵目は孵卵器に入れました。五月十五日産卵。オス、メス交代して抱卵していました。
ところが六月十七日メスが突然死亡。原因は頭部打撲でした。その後オスのみで抱卵していましたが、その卵も破卵してしまいました。なんとか一卵目が無事ふ化。それがメスであることを祈るのみです。
(八木 智子)