82号(1991年07月)5ページ
日本平の好記録・珍記録 〜 トラの育児数日本一 〜
「トラ」と言えば、日本平というくらい、トラの繁殖に関しては、日本平動物園は有名です。ところが、ここ数年、ちっともベビー誕生のニュースが聞かれません。なぜでしょう?答えは簡単です。「生ませないようにしているからです。」
実は、ここ10年位、収容先や、販売ルートの関係から、動物商が、子を引き取ってくれず、困る事が多くなっています。生まれた時は可愛くても、子供はすぐに大きくなります。大きくなれば肉もたくさん食べ、集団飼育が難しい為個々の部屋が必要となります。ところが動物園には4部屋しかありません。それにもし親子の間で子供が生まれては困ります。そこで苦肉の策として、動物園では、出産制限をすることにしました。メスに麻酔をかけ、首の皮膚の下に、シリコンに混ぜたホルモン剤を埋め込みます。すると、このホルモン剤の影響で、体が妊娠したような状態となり発情がこなくなります。この効果は3年位続きますが、生ませたい時には、この薬を取り出せばいいのです。
さて、好記録ということで、今はなきメストラ「カズ」についてその記録をひもといてみましょう。
カズは、生後6ヶ月位で、開園前の昭和44年7月11日来園しました。そして、老衰で昭和63年3月21日に死ぬまでの18年10ヶ月(これも多分日本一の長寿記録)の間に、3頭とのオストラとの間で、15回出産をし、38頭の子をもうけ、内31頭を育て上げました。出産数の記録としては、上野動物園の「シェフ」というメストラが、13回の出産で43頭生んだという記録がありますが、育ったのは30頭ですので、育児数では「カズ」が日本一という事になります。
その出産記録を表に現わしてみました。
[回数] [出産年月日] [産仔数(性別)] [オス親] [備考]
1 s.47.5.7 1(♀1) サブ?T世 人工哺育
2 s.48.8.3 3(♂2 ♀1) サブ?U世
3 s.49.10.18 3(♂2 ♀1) 〃
4 s.50.9.30 3(♂2 ♀1) 〃
5 s.51.9.24 2(♂1 ♀1) 〃
6 s.52.10.4 3(♂1 ♀2) 〃
7 s.53.10.1 4(♂3 ♀1) 〃
8 s.54.9.16 4(♀4) 〃
9 s.55.8.21 4(♂2 ♀2) 〃 ♀1死亡
10 s.56.8.9 3(♀3) 〃
11 s.58.1.17 1(♀1) サブ?V世 死亡
12 s.58.5.29 3(♂3) 〃 〃
13 s.58.10.11 2(♂1 ♀1) 〃 ♀1死亡 ♂1人工哺育
14 s.59.10.4 1(♂1) 〃 名前ミナ(現在飼育)
15 s.61.1.20 1(♂1) 〃 死産
この表からもわかるように、1回の出産数は、全盛期には4頭でしたが、年と共に数がへってきており、最後はお産が非常に大変でした。それにしてもよく生んでくれました。日本平動物園の一番の功労者といっても過言ではないでしょう。
全校的にトラの繁殖制限が行われている現在、、当分この「カズ」の記録は破られることはないでしょう。
(飼育課 三宅課長)