83号(1991年09月)3ページ
動物病院だより
園内の木々の葉が黄色や赤色に色づき、ジョウビタキやカモ達の姿が目立つようになってきましたが、皆さん、お元気ですか。
今年のかぜは、熱はでないけど、呼吸器系やおなかにくるみたいだと話にきいていましたところ、もうさっそくにチンパンジーやゴリラ、オランウータンが、その症状に見舞われました。
まずは、チンパンジーのボコが、コンコンと咳をし始め、続いてデイジーちゃんが、コンコン、あ〜あ、これからが演技力が問われるところです。いつもと同じようにして、薬入りのジュースやミルクを飲ませなければなりません。私達、獣医が「さあ、これを飲めば、楽になるよ。」とやっても、彼らにしてみれば、変なものとしか写りません。
担当の小野田飼育課員が、なにげなくやって成功となるわけですから、この演技力にかけるしかありません。
そうこうしているうちに、ゴリラのトトが下痢、餌もほとんど食べず、台の上にだるそうにしています。「となりのゴロンの様子も、ちょっと変だ。」と、そしてオランウータンのジュンも鼻汁をズーズーとやり始めました。
そうなると、投薬一つもけっこう手間がかかるようになり、哺乳ビンの中に、ミルクを入れ、「えーと、これはトト、これは、ゴロン。それから、ポコにデイジー…」と台の上に並べて、演技力開始となるわけです。
幸い、小野田飼育課員の演技力のおかげを持ちまして、今のところ大事に至らずにすんでいます。しかし、肝心の小野田飼育課員が、風邪をひいてしまい、鼻水と、咳をコンコンやり始めてしまいました。そしてついにチンパンジーの子のエディが、同じ症状でダウン!!類人猿担当の人は、かぜをひかないで!!とお願いしたいところですが、そうもゆきませんネ。
今回のニュースとしてオオアリクイの出産がありました。母親は、当園で一九八九年九月二十九日に生まれた個体です。オオアリクイの繁殖は、野毛山動物園で一例、当園でなんと四例だけ、日本で報告されているのみです。もちろん、動物園生まれの個体の繁殖は初めてのことでした。当園飼育のオオアリクイのオスは、来園時四kgと幼獣でした。一年でほぼ大人の大きさになったのですが、なかなか父親になれず、七年目でようやく繁殖に結びつくことができました。
ですから成熟にはその位の年数がかかるものだと思っていました。
ある日、担当の後藤飼育課員より「おーい、ムチャチャのおっぱいをしぼると、乳汁がでるよ」と連絡がありました。最初は信じられませんでした。
そこで、私もムチャチャのおっぱいをしぼってみると、指先に、しっかりと白い乳汁がついてきたのです。まだ二才なのに…。
そして、九月十八日朝、出産が確認されました。臍帯は、すでに切られていましたが、子は親と離れた所に横たわっていました。ただちに子を暖めて、しばらくしてから親の乳首につけてみたのですが、全然吸う気がありませんでした。結局、その日の夜、死亡してしまいました。出産時、頭をぶってしまったようです。この次は、絶対に成功させたいと思います。
さて、今年の秋は、ほんとうに雨がよく降りましたネ。皆さんも運動会や遠足がなかなか実施されず、ヤキモキしたのではないでしょうか。そしてこの長雨の影響で野菜が高騰して、主婦の皆さんは、野菜を前に買おうか、やめようか悩むことがしばしばあったと思います。当園の動物達の台所を預かる小島飼育課員も、同じ思いで嘆いています。いろいろと変えられればいいのですが、そうもゆかず飼料費の残高をながめては、三月末までどうやっていこうかと主婦感覚でやりくりをしているようです。農家の皆さんもたいへんで、今冬は出かせぎに行かなければといっているニュースを聞くと、無理は言えませんが…。今後の天候の安定を祈るしかありません。
来年の干支は、サルです。当園には、体重が百gぐらいのピグミーマーモセットから、体重が優に百kgを超えるゴリラまで28種、約90頭のサルを飼育しています。今秋、サルサンデーが催されましたが、しっかりとサルの勉強をしましたか?サルと一言で言っても、いろいろな種類があって特窒ェさまざまあったと思います。
ただ今、当園では、チンパンジー、シシオザル、ダイアナモンキー、オオガラゴといったサル達が人工哺育中です。来年のお正月には、彼らがきっと主役になって、皆さんをお迎えすることと思います。
(八木 智子)