84号(1991年11月)3ページ
さるの話題を追って【ダイアナモンキーの人工哺育】
シシオザルの人工哺育がペースにのり出した頃、思いもかけないダイアナモンキーの出産がありました。長女が生んだのなら、次女が生んだのならそうは言いません。共に女盛り、生んで当たり前の年齢でしたから。
しかし、生んだのは彼女達の母親です。背中は少々曲がり、尾は凍傷で半分なく、眼は持病でしょっちゅうしょぼしょぼ、そんな母親が生んだのです。誰だって驚きます。
年齢は推定でながら、24才。ヒトならこれからの年齢ですが、相手は30年も生きれば大長寿のサルです。失礼な言い方をすれば、棺桶に片足どころか、両足を突っ込みかかっているのです。
前回(3年前)ですら驚きであって、もう最後の最後と思っていたのに、又もや又もやです。しかしと言うか、だからと言うか、それが心配、不安に変わるのにそう時間はかかりませんでした。前回同様、母乳が出ないか、出ても極めて悪い状態が考えられます。
しばらく様子を見ようと言っている内、子に関心を持ち出した長女が母親から奪い取りました。可愛いと奪い抱き寄せたからと言って、彼女から乳が出る筈はありません。このところオスと折り合いが悪いのか、子は生んでいないのです。
迷わず、人工哺育。生かす為にはそれしかありませんでした。しかし、担当者の複雑な顔。やる気があっても二頭立て続けでは、少々うんざりした気持ちになっていたでしょう。
子は、親がいかにも晩年に生みましたと言うように、毛に色つやがなくパサパサしているようでした。それにしても、死産にならずよくぞ生きたまま生まれたものです。
年齢からお分かり頂けるでしょう。彼女は、数少ない開園以来の動物です。前夫は遠の昔にあの世へ旅立っています。
もう、いかにせよ、最後の最後の最後でしょう。そう思うとどのような形であれ、無事に育つことを祈らずにはいられません。
若い担当者は、かってのジミ―とダイジと名付けられたダイアナモンキーの人工哺育日誌を何度も何度も読み返していました。