でっきぶらし(News Paper)

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サルの話題を追って【ノイローゼのマンドリル】

 顔の中央の鼻筋が真赤、その両サイドは青、そのいかめしい顔付きは一度見たら忘れられません。正にヒヒの中のヒヒである印象を強く受けます。
でも、当園のマンドリル、来園時よりどこか変でした。目がうつろなのです。じっと表情を見つめていても、体はそこにあっても心はどこかに行ってしまっている感じでした。
 ああ、頭がやられているなあ、こいつはまともじゃないやなんて思っている内、ある日左足外ももに深い咬み傷が―。なんのことはない、自分で自分の足に思いっ切り咬みついていたのです。
 精神科医なら、さしずめ自虐症とでも症状名をつけたでしょうか。その内、それに止まらず、右足にも同じように咬みつき傷つけました。
 心の病を治すのは容易ではありません。その時にできることと言えば、犬歯を少し削って丸くすることだけでした。咬んでも体が傷つかないようにする、それが精一杯の処置でした。
 サルは、社会性の豊かな動物です。ひとりぼっちで生きてゆける動物ではありません。そんなことをすれば、繊細な神経はたちどころに病んでしまいます。
 ましてやニホンザルやこのマンドリルのような真猿類になると、もう相当に高等です。ヒトや類人猿に及ばなくても、喜びや怒りや哀しむ感情を持っているだけでなく、退屈をたまらないと思う気持ちもしっかり持っています。
 当園へ来るまでどんな扱いを受けていたかは知りませんが、少なくとも及第点をつけられない飼い方でした。うつろな表情が何よりもの証明でしょう。
 春うららの日差しが強くなるにつれ、マンドリルの表情が戻りつつあります。担当外の私達の語りかけにも強く反応を示すようになっています。年内にも二世が誕生しそうとの報告でもあれば、本物の回復とみなしてよいでしょう。

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