85号(1992年01月)5ページ
サルの話題を追って【ムネアカタマリンの発作】
年末恒例のペンキ塗装作業が、いつもより早く終わって、ほっとひと息ついていると、ムネアカタマリンのケージから何とも重苦しい悲鳴。「グェッー、ギェェッー」
隣のアカテタマリンに尻尾でも引っ張り込まれ、身動きならず苦しんでいたのかと思いました。が、そうではありません。文字通り七転八倒して苦しんでいたのです。
その内横たわり、足をひくひくさせ白眼をむき始めました。口からは、少しですがあわも吹いていました。どうにもならないと思いつつも、ひとりで見ているよりも心が休まるだろうと、とにかく獣医に電話です。
獣医と二人でただただ見守る中、静かに眠るようにおなしくなってしまいました。このまま死んでしまうのかな、そう思うぐらいにです。
もう、最初の悲鳴から二十分以上は経っていたでしょうか。更にそれから数分経つと、むっくりと起き上がってよたよた歩き回り、そうこうする内いつもと何も変わらなくなりました。夕方に与えるとバナナやリンゴも、いつものようにぺロリと平らげました。
俗に言う“てんかん発作”を持つ個体は意外に多いと獣医と語り合う中、一年近く前の謎の事件が互いの脳裡に浮かんできました。あれも発作が主たる原因ではなかったのかと―。
今度迎えたムネアカタマリンの子にはジャンプ力がない、骨や筋力に明らかに問題がある、と獣医に指摘した日、一頭のムネアカタマリンが水鉢に落ちて溺死したのです。
いくらジャンプ力を喪失していたからと言って、水深わずか四〜五センチの水鉢に落ちて溺死するなんて、と思いつつもやはりそこに主眼をおいていました。
今、生き残ったほうの、腰の骨がやや丸く曲がったまま元気を取り戻した個体のてんかん発作を見て考えると、真実はその辺りにあったのかもしれません。発作を起こしていたとなれば、水鉢の水深すらも恐ろしく深く感じられたでしょう。