86号(1992年03月)6ページ
オランウータンを語る?V(クリコ・育児への道)【流産】
とは言え、今までに何度も語っているように、初産の失敗はあまり気にしないほうが賢明です。初めて、何事にも失敗はつきものです。当時、クリコも若く、私も若く、次もその次も期待できると、ショックは立ちどころに消えてゆきました。
そんな中で、気になることがひとつ、月のものの出血がやたら目立つのです。今までさんざん苦労したその記録が、いとも簡単にできるようになりました。
なんとも解せず、獣医に出産後の模様を話した記憶もかすかに残っています。今から思えば、結果から見れば、それは体調の回復が充分でなかったことを示していたようでした。
程なく二度目の妊娠の喜びも束の間、クリコは流産したのです。多量の出血が続いた後に、赤黒い太いウンチのようなものを排出しました。
私にはそれが何か理解できず、急いで獣医のところへ「クリコから、こんなものが出た」です。「これはまだ胎盤になる前、真ん中のほら白いプチッとしたのがあるでしょ。これが胎児よ」の獣医の説明にふーんです。口惜しいより、残念より、神秘的なものを見せられて、妙に関心はそちらに向いていました。
後々に悔やまれたのは、それをカメラに収めなかったことです。当時はまだカメラへの関心は薄く、そこまで気は回りませんでした。記録魔の道を歩むにつけ、どうであれ滅多にできない体験であったと、記録しなかったこと今でも悔やまれます。
若いクリコは、その流産からすぐに回復。程なく三度目の妊娠に入りました。死産や流産した後は妊娠しやすいとよく聞きますが、オランウータンに限らず、その感なきにしもあらずです。