86号(1992年03月)7ページ
オランウータンを語る?V(クリコ・育児への道)【出産予定日を誤って】
出産予定日を立てる、簡単なようでこれは実にむつかしい作業です。ひとつ誤れば、周囲に迷惑をかけることこの上なしです。月経を一度見落とせば一ヶ月ずれます。二度も見落とせば何を言わんや、まして周囲の期待が大きければどうなるでしょう。
穴があったら入りたい、恥ずかしくて辛くなってくると本当にそんな気になります。予定日を立てて十二月中に生まれなかった時、これは見落としたと思いました。でも、一月半ば過ぎまでに生まれるだろう、自分なりにしっかり観察していたつもりでしたから、そこまではまだ気持ちの余裕はありました。
しかし、一月が過ぎても生まれず、周囲からは妊娠を疑う声も出始めました。百歩譲ろうと、万歩譲ろうとも、妊娠の条件は全てそろっていたのです。と言っても、予定を立てられなくなって、辛くなるやら、恥ずかしくなるやら、やるせないやらで、ただただ小さくなっていました。
最初の予定より二ヶ月後、見直してからでも一ヶ月後、クリコはようやく出産しました。嬉しいと言うより安堵、何か大きな重圧から開放された気分でした。これからが大変だと言うのにです。
設置してあったビデオを巻き戻して見ると、クリコは床に子を一度落としてそれから拾い上げていました。もし、前回の失敗による用心、床にわらを敷いてなかったら、この子も恐らく駄目だったでしょう。糞尿で汚し取り替えるのにひと苦労。それにわらのほこりが乾燥しやすい室内をより乾燥させ、クリコがよくのどを乾かせたりしたので、わずらわしく思うことが度々ありました。が、土壇場で最高の効を奏してくれました。