88号(1992年07月)16ページ
日本平の好記録・珍記録 〜 おみやげのキツネザル達(その1) 〜
静岡は、近くに清水、焼津といった遠洋漁業の港があります。ワシントン条約の施行前には、これらの船員が航海中に飼っていた色々な動物達を、当園に持ち込んでは寄付してくれました。ペンギン、オオム、サル等、本当に沢山のおみやげがありました。そしてこれらのおみやげの中には、時として世界的珍品が入ることもあります。
それは、マダガスカルに住む原始的なサル、キツネザル達です。
今までに寄付されたキツネザルは5種類。イタチキツネザル、ハイイロキツネザル、フトオコビトキツネザル、ブラウンキツネザル、クロキツネザルです。これらのサルは、現地の港に売りに来たそうですが、殆どが物々交換で、中には、Tシャツ1枚やインスタントラーメン数個と交換したのもあるそうで、お互いに価値を知らないとは言え、キツネザルもずいぶんと低く見積もられていたものです。
今回、これら寄贈されたキツネザル達を表にしてみて気がついた事は、これらの殆どが、1973年から1975年に集中していた事です。この頃は、アフリカ沖の操業が盛んだったのでしょうか。
<寄贈されたキツネザル>
[性] [来園〜出園又は死亡年月日] [飼育期間・その他]
○イタチキツネザル
♀ 1973.3.11 〜 1973.12.10 9ヶ月
○ハイイロキツネザル
♀ 1973.2.18 〜 1988.8.18 15年6ヶ月
♂ 1973.5.3 〜 1983.9.13 10年4ヶ月
♀ 1977.11.3 〜 1986.9.16 8年10ヶ月
○フトオコビトザル
♂ 1972.9.1 〜 1972.9.8 7日間
♀ 1973.11.4 〜 1991.2.2 17年3ヶ月
○クロキツネザル
♂ 1973.7.4 〜 生存 19年以上
♂ 1974.6.2 〜 1982.1.27 モンキーセンターへ移動
♂ 1974.8.1 〜 1972.9.10 〃
♀ 1975.3.16 〜 生存 16年8ヶ月以上
♂ 1975.8.1 〜 1975.8.16 15日間
♀ 1975.10.20〜 1977.12.20 2年2ヶ月
○ブラウンキツネザル
♀ 1975.9.14 〜 1987.8.21 11年11ヶ月
さて、この中での最高の珍品は、何といってもイタチキツネザルです。何しろ日本はもとより、世界でも殆ど飼育例がなく、最長飼育記録が8ヶ月という位飼育の難しい種類なのです。持ち込まれた当初は、種類もわからず、どうやって飼育していいかわからず、まったくの手さぐりでした。しかし、飼育8ヶ月を過ぎホッとしたのもつかの間、9ヶ月で急死してしまいました。しかし、これ以後、飼育例を聞かないので、もしかしたらこの9ヶ月が今でも世界最長記録かもしれません。
次の珍品はハイイロキツネザルです。運よく続けて寄付された雄、雌で飼育を開始し、さらに、笹の葉をよく食べるという、いい餌の発見からは、飼育は順調になり、日本初の繁殖や人工哺育にも成功し、最大7頭にまでふえました。当時の飼育数は、日本ではもちろん当園だけであり、世界でも5園で14頭飼育されているにすぎず、世界中の半分を飼育しているという事で、鼻高々だったのですが、それを最高に1頭、また1頭と死んでゆき、最初に来た「ゴサク」という雌が、15年6ヶ月という長期飼育記録(調べた範囲の記録では、ロンドン動物園の6年1ヶ月)を作って死んだのを最後に、この園からいなくなってしまいました。
他の種類の好記録、珍記録は、その2にてお話します。
(三宅隆)