88号(1992年07月)2ページ
あらかると【コシアカツバメの災難】
数年前の「でっきぶらし」で、ゾウ舎でのコシアカツバメの出来事の投稿を御覧頂いた方もあると思います。内容は、せっせと作った巣を完成の数秒後にゾウの鼻によって潰されてしまった話です。
ちょっと離れた壁にまた作り初めては壊されること六度でとうとう諦め、お客様側の壁に作ってようやく完成です。が、抱卵を始めると、今度はゾウの鼻ではなくてスズメが巣の周りをうろつくようになりました。
どうもツバメの巣を欲して、乗っ取りの機会をうかがっているようでした。抱卵中は親がいて中に入れず入り口付近でチィチィ鳴いているだけでしたが、ひながふ化すると親のいない隙を見計らって中へ入るようになりました。
ひなを追い出そうとしているのでしょう。巣の中からツバメのひなの鳴き声が聞こえます。親が戻ってくると、スズメは巣の外へ出て中の様子をうかがっています。
翌日の朝、ツバメのひな三羽が地上に落ちて死亡していました。スズメが、親のいない間に追い落としてしまったのでしょう。親の姿はもう、ゾウ舎の周りのどこにも見られませんでした。
今度はスズメのペアがせっせと巣材を運び、抱卵に入りました。これは誰にも邪魔されることもなく、いつしか数羽が無事巣立ってゆきました。
こんなことがあって数年間、ツバメがゾウ舎の周辺を飛ぶのが見られなくなってしまいました。が、今年の七月中旬、二羽が久しぶりに姿を見せたのです。
前回のようなことがないようにと願っていたのですが、前とさして変わらないところに巣を作り始めたのです。ゾウの鼻が届くか届かないかぎりぎりの位置ではらはらしましたが、なんとか巣が完成して抱卵に。
スズメの姿も見当たらず、八月の上旬にはひながふ化したらしく、時々鳴き声が聞こえるようになりました。巣の外に落ちている糞の状態からは元気にしている様子がうかがえました。
私が三日連休を取っている間に巣立ったようで、もう巣の周りのどこにも親子の姿は見えませんでした。その巣は、よく見ると半分壊れかかっていました。多分、ゾウがやったのでしょうが、抱卵中でなかったのは幸いでした。
来年もやってこいよと願いつつ、もう少し安全な場所、ゾウの鼻の届かないところで営巣してくれないものかと思わずにはいられません。
(佐野一成)