88号(1992年07月)9ページ
オランウータンを語る?W(クリコ・育児への道)【クリコ、おっぱいをあ
放飼場での出産は思わぬ事態でしたが、クリコの予想外の落ちつきにまずはひと安心。でも、闘いはこれからです。抱いてさえいれば“良し”ではありません。
寝室内に収容して、いくら観察していても案の定授乳する気配は全くなし。食事を与える時に子を少し触ると、それだけで子を固く抱きしめてしまいました。余裕がないと言うより、何をしてよいのか分からないようでした。
生後二十五時間過ぎても何も変わらず、担当している者にとってはもう我慢の限界です。これ以上、黙して見ているだけなんて、とてもやり切れません。意を決して、いざクリコの部屋へ。
台の上にでんと居座っているクリコ、途端に子を抱く腕に力が入りました。その腕を下に降ろせと命令し、かつ力ずくで降ろそうとする私、子をかばってすぐ様腕をあげてしまうクリコ。そんなことを何度も何度も繰り返しました。
この時の記憶はそんなにはっきりしていません。ただ甦るのは、クリコを何度も叱り飛ばし汗だくになっている私です。当時のまとめを見れば、乳首に吸いつかせるまでの所要時間は十八分とありました。長い長い十八分でした。
これで「やったあ」ではありません。次に命令しなければならなかったのは、我慢です。せっかく吸いつかせても、外されては元のもくあみです。
痛いのかくすぐったいのか、クリコは時折自分で自分の頭を平手でパンパンたたきました。そうかと思うと「グッフグッフ」と何とも言えぬ呻き声を発しました。心の中で叫んだのは「我慢しろ。お前が母親になる道だ。みんなお前の為だ」
子が、おっぱいを吸った時間は、おおよそ三分。とにもかくにも一ラウンド終了です。