でっきぶらし(News Paper)

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オランウータンを語る?W(クリコ・育児への道)【悪戯っ子は育つ】

 もうずいぶん前のことですが、ある新聞のコラムに「サルの母親が子に豆の皮をむいてあげる姿ほど可愛らしい姿はない」の一節がありました。明らかにコラムニストの作文です。サルを扱って二十年以上、まだ一度もそんな光景に出会ったことはありません。
 クリコは、母親としてはずいぶんと?がつきます。しかし、子に食べ物を与えないことだけは責められません。例外は多少ありますが、欲しければ自分で探して食べろが、おおむね彼らの習性です。
 とは言え、飼育下ではそうだからと黙視できないし、それではとある余る程に台の上に餌を置く訳にもゆきません。ただでも太り易いオランウータン、そんなことをすればたちどころに超肥満体です。
 ここでも、私の出番。母親には母親のメニュー、子には子のメニューです。離乳食は、まずはバナナから。やり易いと思ったのは、子は母親の食事に強烈な刺激を受けていて、食欲が満点なことです。人工哺育の場合は、それがなくて苦労するのです。
 次に、パンを食べ易いようにバナナとミックスにしたり、あるいはミルクに浸して、煮サツマは粘ってダンゴにしたりして与えました。そんな気配りに素直に応じたのは、最初の内だけ。
 一年近く経てば、けっこう悪戯するようになるもの。食べ物も時にはおもちゃです。バナナはぶん投げる、パンを引きちぎるで、そうかと思えば、私の髪の毛を思い切り引っ張ったり、です。
 叱っても、相手は子と言えども樹上の曲芸師。鉄格子をスルスルと昇り、片手、片足でぶら下がって、こちらをからかうように見降ろしていました。
 頭にきて、何度かその子をとっちめてやろうとこちらも一緒になって鉄格子をよじ昇っていったことがありました。が、その度にクリコにズボンの裾を引っ張られ、私の子に何をするのと言いた気な表情をされました。
 クリコ、やはり母親でした。二十四時間きっちり付き合っている相手にはかないません。

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