91号(1993年01月)5ページ
獣医さん大忙し【ムネアカタマリン・脚部を傷めて】
サルの爪は一般に平爪、私達ヒトと何ら変わりありません。が、マーモセットやタマリンと言われる小さなサル達は、親指が四本の指に向かい合うこともなく、かつ鉤爪です。
この鉤爪、時には困った作用をします。野生では木の登り降り、あるいは木に傷をつけて樹液や樹脂を舐めるのには便利なのでしょうが、自分の体を強くかいてしまうとどうなるでしょう。
予備室で飼育しているムネアカタマリン、幼少時における骨障害が災いして、腰部と脚部の骨が曲がったまま固まってしまっています。それが為でしょう。自らの尿で腹部や脚部をよく汚します。
そして、それが原因で痒くなるのでしょう。体をぼりぼりとよくかきました。あの鉤爪でです。
最初は、少し赤くなっている程度だったので気にも取めずにいたのが、次第ゝに傷口が深くなって、いつしか「ギェーッ」と悲鳴をあげる程痛がるになってしまいました。
こうなれば、もう放ってはおけません。単なる引っかき傷、ヒトならイソジンをぺんぺんとぬれば治せる傷も、例え小さなサル一匹でもおいそれ簡単にはゆきません。
捕らえること事態もサルにとっては強烈なストレスです。それでショック死させたり、寿命を縮めてしまったりの経験もしています。たかだか脚部の引っかき傷の治療にさえ、そんな不安を胸に秘めなければならないのです。
それに包帯をしっかり巻いたら巻いたで、返って傷口がむれて化膿です。巻かなければ更に引っかいてより悪化させてしまいます。ゆるく巻けばすぐに取れ、治療回数を増やさなねばなりません。
不幸中の幸いとでも言うか、ムネアカタマリンは人工哺育で育てられた個体、捕らえることに与えるストレスは思いの他少なくて済みました。それと獣医のちょっとした工夫、通気のよい荒目のガーゼの使用が功を奏して、日にちはちょっと要したものの治癒。一件落着しました。