91号(1993年01月)8ページ
獣医さん大忙し【ゾウ・爪切りだけではなかった】
若い飼育係が、「これ、おいしいよ」ともうひとりの若い飼育係に。しゃぶった瞬間「んー、しょっぺえ、なんだこれ」と目をパチクリ。こんな悪戯騒動があったそうです。
その正体は、ゾウの削られた爪でした。ちょっと見た目にはスルメか、それに近いおいしそうな干物に見えます。だもので、物の見事にひっかかってしまったのです。
ゾウの爪、のびてくると時折削ることがあるそうですが、聞くとなかなかの重労働です。まず雨の日の爪が少しでもふやけた時を狙い、ナタで思いっ切り削るのだそうです。
獣医は「女の私の力ではとても削れない」から、のび具合を見て形を整える為にあそこを削って、ここを削って、ともっぱら指示する側に回るとのこと。はあはあと息をつきながら切るのは担当者の役目だそうですが、相手がゾウならやむを得ないでしょう。
その割にはゾウ舎に向かうことが多く訳を尋ねると「ダンボ」の悪い癖が原因でした。牙は折れてとっくにないのですが、それが又生えてくると鉄柵にガンガンぶっつけてこすってしまうのだそうです。
で、挙句に起こしたのが歯肉炎。その治療の為に、足繁くゾウ舎に通っていたのでした。
担当者以外には意地悪で、時には恐怖さえ与える「ダンボ」。若い飼育係もこの「ダンボ」にはタジタジです。でも、獣医の立場としては、恐怖を覚えるからと言って逃げる訳にはゆきません。
そんな獣医のプレッシャーを和らげ、かつ治療を容易にしてくれるのは、飼育係との信頼関係です。担当者がゾウを制御してくれている限り絶対に大丈夫との安心感が、少々ゾウがいやがるであろう治療もやれるのです。
その場面を見た訳ではありませんが、ボスの命令として素直に受け入れる姿は、自らのオランウータンの時の経験に照らして容易に想像できます。