92号(1993年03月)2ページ
出産 それぞれの経過(?T)【シロガオサキ 嬉しい誤算】
二月十九日のまだまだ冷え込みの厳しい朝、いつものように仕事を始めたのですが、オスの様子がどうも変です。ぶるぶる寒そうにしながら、放飼場に出たと思えば寝部屋に入ったりしているのです。が、決して赤外燈の吊るした最も暖かい場所である“寝箱”には入ろうとしないのです。
静かにうずくまっているメスをよくよく見ると子を抱いています。しっかり胸に、実にいい抱き方です。
予想外の実に嬉しい出来事と思うと同時に、オスがおどおどしていた理由もすぐのみ込めました。オスにとっては、とんでもない者の出現に慌てて身をどう処していいのか分からなかったようです。
その様子を見つめながら、嬉しい筈のこちらの気分は今ひとつすっきりしません。と言うのも、つい数日前までオスはメスに粘っこい接し方をしていただけでなく、二日前には交尾しようとする動作まで見せていたのです。
誰が妊娠末期と想像するでしょう。しかもまだ昨年の六月に同居させたばかりで、かつメスは三才余りの若さです。少々ぽってりしたお腹を見せられたって、最近少し太ってきたなあで済ませてしまいます。
飼育日誌には、先に述べたことをそのまま記録していました。考えようによっては、いえ考えなくたって飼育係の面子は丸つぶれです。
発情そのものを見落としても、その後の変化、腹部の膨みや外性器や乳首の変化をきちんと捉えるのは、飼育係の大事な仕事のひとつです。それができなかったのは、どんな理由があったところで反省すべきではあります。
それでも意気揚々としていられるのは、子が無事に生まれ親の胸にしっかり抱かれているから。餌だって、どれをどれだけ与えていいかは半ば手探りでした。それが正解か否か、無事出産してかつ順調な発育はひとつの答えでもあるのです。