92号(1993年03月)3ページ
出産 それぞれの経過(?T)【クロキツネザル・まさかまさか】
シロガオサキの子の成長は、順調過ぎる程順調でした。それでも心配です。観察の度合は、どうしても必然的に高まります。
そんなある日、異変があったのは、シロガオサキではなく、隣室のクロキツネザルのほうでした。いつもは仲のいいペアですが、その時に限ってメスは何もしていないオスに向かって盛んに威嚇しているのです。
よくよくメスの胸の部分を見ると何か変です。黒いひものようなものが垂れ下がって見えます。今度はこちらがちょぴり驚かせて、胸を広げるような姿勢を取らせると「あれえ、赤ちゃんがいる」です。
急いでオスを分けました。分けなければ、子の生死に関わります。子育てにオスは無用どころか、強烈なストレスの元になるのです。それが三月十五日の帰り際の出来事でした。
で、翌日の朝、一番にクロキツネザルの部屋を覗くと、子は二頭に増えていました。そう、あれから又もう一頭生んだのです。
オスはかなりの老齢、メスだって決して若くはありません。シロガオサキと同様、メスの多少のお腹の膨みは確認していました。しかし、自問自答する中でまさかまさかとすぐ打ち消していました。
そのまさかまさかの予想外の出産の喜びも半ば、二十四時間も経過した頃、二頭の子は相次いで親より落ちたのです。二頭目の子は冷たく仮死状態になってからの発見。正に危ないところでした。
やはり、年齢のせいかもしれません。抱き方もよく、授乳も確認していました。オスも早く分けたことによって、メスには今までにはない落ち着きが見られました。にもかかわらず、人工哺育にせざるを得なかったのには母乳の出を疑わざるを得ません。
母親の肌を恋しがって互いにひしっと抱き合う二頭の子。時にはとんでもないところをつかみ合って悲鳴をあげていますが、しばらくは耐えて母親の代わりです。