でっきぶらし(News Paper)

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あらかると【オランウータン・ペリー 出産始末記】

 オランウータンが三月十二日に生まれたのは、前号でお知らせしました。その際、出産まで室内に乾草をほぐしたものを敷きつめていましたが、目的は万が一子供を床に落としても大丈夫なようにクッションの役目をさせる為でした。これについて面白い行動が見られたので書いてみます。
 当初、室内に乾草を入れれば、ベリーの性格からしてばさばさ振り回し室内をほこりだらけにして呼吸器系を悪くしないかと心配しました。が、意に反して、夕食が終わると両腕を使って乾草を叩いて固めてそこに横たわり、今度は周りの乾草をかき集めて体全体を覆って、一見すると何処にいるのか分からない程上手に潜ってしまいました。
 これは出産当日まで続いたのですが、そこで困った事が生じました。夜間観察と出産シーンを撮る為にビデオカメラを設置していたのですが、乾草を入れる前には必ず寝ていたフロアヒーターの効いた寝台の上にはゆかなくなり、カメラに全く映らなくなってしまったのです。
 夜に観察に来ても、記録用紙にはカメラに映らず乾草の中、という文字が空しく綴られてゆきました。ベリーは乾草の寝床は相当のお気に入りのようで、夕食後に潜り込むと朝までその状態でいました。
 朝、ミルクと体温測定の為に入った時にやっと起き出すぐらいでした。もっとよく寝ている時は、私に体をとんとんとたたかれてやっと乾草を浮「ながら起き出す始末でした。
 しかし、いくらふだんがそんな状態でも、陣痛がくれば動き回るから出産シーンぐらいは映るだろう、と高を括っていました。
 出産当日、朝、いつものように室内に入れば、出産はすでに終わっていました。子を取り上げた後にテープを再生しましたが、九時間画面が停止したままのごとく体の一部さえ映っておらず、ビデオカメラの設置は何の役にも立ちませんでした。
 ベリーは初産にも拘らずパニックも起こさず、子を五体満足で私に手渡してくれました。性格が穏やかだったこともあるでしょうが、乾草を予想外に気に入ってくれたことも、精神を安定させるのに大いに役立ってくれたと思います。
 余談ですが、出産後いらなくなった乾草を片付ける為に大きなポリバケツを持って中に入ると、ベリーは自分で乾草をかき集めてバケツの中に入れ始めたのです。これには、びっくりさせられました。
 まあ、出産するまで二日に一度の割で、尿で汚れた乾草を同じようにバケツに入れ新しいのを足していました。それをベリーはずっと見ていたのですから、そんなに不思議ではないかもしれません。
 しかし、よりによって今日で乾草がなくなるという日にやるとは―。出産する日までお世話になった乾草に対する、ベリーなりのお礼のつもりだったのかもしれません。
(池ヶ谷正志)

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