93号(1993年05月)6ページ
出産(ふ化) それぞれの経過(?U)【フンボルトペンギン 賑やかな甘
朝、昼、夕、持ち場へ向かう定期コースになってしまったペンギン池の前。今、フンボルトペンギンの幼鳥がかしましいったらありません。親鳥に餌をくれと、しつっこく甘えて鳴き続けているのです。
親鳥も内心は困っているのでしょう。とぼけた表情をして知らんふりしているのですが、無視できないしつっこさです。時折与えいるような仕草は見られますが、どうも“くれだまし”のような仕草です。
ともあれ、それは無事に育った証拠。そこまで大きくなってアクシデントに見舞われるようなことはまずありません。そこに至るまでが大変なのです。あのしつっこさも言わば別れの儀式で、ねだるよりも自力で食べるほうが手っ取り早く満腹になれるのに気付くと、自然に甘え声は聞かれなくなります。
それらペンギンの幼鳥にとってなんたって恐ろしいのはアスペルギルス症(肺などがカビの菌に冒される病気)です。ふ化してから二ヶ月程過ごす巣穴は、ややもすればその温床にもなり勝ちです。成鳥だって、体調を崩せば容易にかかってしまいます。
はるか遠く南米のフンボルト海流(寒流)が通る故郷の海辺では恐くも何ともないカビの菌も、高温多湿になる日本の夏では正に恐怖の菌になります。真夏のピークがくる前にしっかり大きくなってくれ、と願わずにはいられません。
多くのひながしっかり親に育てられる中、一羽だけやむを得ず人工育雛にしなくてはならないケースが生じました。その個体が体調を崩した時、真先に疑われたのがアスペルギルス症です。担当者は内心ハラハラドキドキしながらの育雛だったでしょうが、今はどうすれば仲間の元に返せるか、別の悩みを抱えています。
様々な悩みを抱きつつも、一昔前からは信じられない繁殖率です。幾人もの飼育係が地道に工夫を重ねていった努力が結実しているのです。ドジばかりやっていた私、頭が下がるばかりです。